ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~   作:アルタナ

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第37話:自分を罰する理由

突然の来客とはいえ、武器を構えて冷静に構える三人。

 

 

「…よく言う。戦場で生き残れる人間が、この程度で怯むものか」

 

 

シグレが、刀を握る手に少しだけ力を込めて言う。

その言葉に、ストレアとフィリアは、このVR世界の事を指して言っているのだと考えていた。

 

 

「いやぁ、もう10年も前のことだからなぁ。すっかり勘も鈍っちまってるんだよ」

「ちっ…」

 

 

ニヤニヤと口元に笑みを浮かべながら飄々と返すPoH。

その口ぶりに、シグレは吐き捨てるように舌打ちをする。

武器を構える三人を相手に武器を構えすらしないのは、余裕からか、圏内だからか。

 

 

「…そう焦んな。今日は挨拶と…そっちの二人に警告に来ただけだ」

「どういう意味?」

 

 

PoHの言葉にフィリアが尋ね返す。

その口調には警戒がありありと聞いて取れる。

 

 

「何、簡単なことさ。そいつと一緒にいたら…いつかは殺されちまうかもしれないぜ、ってな」

「……」

 

 

PoHの言葉に、シグレは返さない。

 

 

「それは、貴方のギルドの仲間を殺したっていう事?それなら…」

「…NoNo。違うぜ、お嬢さん」

 

 

シグレが笑う棺桶の討伐に乗り込んだ際に同行していたストレアが言えば、PoHは否定する。

話を遮り、PoHは一層笑みを浮かべ。

 

 

「…ちっちゃいBoyだったそいつは、文字通り、人を殺したのさ。俺が知ってる限りでも…あー、10人近くは殺してたなぁ?」

「っ……」

「お前も、俺となんも変わらねぇ。人殺しだろ?」

 

 

このSAOではない、現実で人を殺した。

それにはさすがにストレアも、この世界で人を殺したといったフィリアも息を呑む。

否定してほしいと思いながら、シグレを見る。

 

 

「……否定する理由はない。俺は確かに、人を殺した…何人殺したかまでは、覚えていないがな」

 

 

シグレは否定をしなかった。

 

 

「こっちでも人は殺せるが、物足りねぇ。血の匂い、肉を切り裂く感触…その何もかもがない。お前もそう思うだろ?」

「……別にだからどうだと言うつもりはないがな」

 

 

そうかそうか、と嗤うPoH。

内容が内容じゃなければ、友人同士の会話にもとれるが。

 

 

「ま、今日は挨拶までだ。また会おうや…真の意味でのオレンジプレイヤー同士、仲良くしようや」

「……消えろ」

 

 

おぉ怖い怖い、と最後までおどけながら去っていくPoH。

姿が完全に消えたのを見届け、シグレは刀を納める。

けれど、シグレはストレアとフィリアの方には振り返らない。

 

 

「…ねぇ、シグレ」

 

 

フィリアが声をかける。

その問いかけに、振り返らず、また答えることもなく。

 

 

「奴が言ったことは、事実だ。俺はこの世界の中ではなく…現実で人を斬った」

「でもそれは…!」

 

 

何か理由があったのでは、とストレアが反論しようとする。

しかし、いかなる理由であれ人を殺す事が許されるはずがない。

AIとしてプログラムされたその認識が、それ以上の反論を許さなかった。

 

 

「…何か、理由があったんじゃないの?」

 

 

フィリアがその意を引き継ぐように、尋ねる。

それに対し。

 

 

「理由があれば…人殺しは許されるのか」

「っ…」

 

 

シグレは背を向けたまま問い返す。

フィリアは、その質問に対する答えを返すことが出来なかった。


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