ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
*** Side Kirito ***
アインクラッド76層。
これまでホロウ・エリアにかかりっきりだったが、そろそろ攻略を進めないと。
「…とはいっても」
いくらストレアとフィリアがいるといっても、あのシグレだしなぁ。
面倒なことになってなければいいけど、と思う。
攻略を進めようにも、このフロアのボスの情報がまだ少なすぎる為、攻略会議すら開けない状態だった。
それを含め、明日はフィールドに出て情報収集に出ることになっている。
「……パパ?」
ふと、呼びかけてくる声。
俺のことをこう呼ぶのは、この世界…というよりどこを探しても一人しかいない。
「ユイ…どうしたんだ?」
「いえ…何か難しい顔をしてたので。何か…あったんですか?」
「…いや、何でもないよ」
心配させないように笑顔を作って返す。
けれど、娘とはいえ、AIであり、MHCPであるユイには通じず。
「…シグレさんの事、ですか?」
「っ…バレちゃってたか」
「いえ、今のはこれまでのパパの言動その他からの推測…パパの言葉を借りるなら、何となく、です」
「そっか」
とはいえ、ユイなら、分かるかもしれない。
シグレに生じていた、異変の欠片。
それを解決する、何かを。
そう思い、これまでにあった事をユイに話すことにした。
…時折、頭痛に襲われている様子を見せていたこと。
…頭痛に襲われると、周りのことすら見えなくなるようだったこと。
それ以上の事は分からないが、知ってる限りを話す。
話し終えたところで、ユイは少しだけ考え、真剣な表情で。
「……パパ、可能な限り早く、SAOをクリアしてください」
「ユイ?」
突然の言葉に驚く。
クリアはするつもりだが、どうして急に…
「さっき、シグレさんが酷い頭痛に襲われていた…って言ってましたよね」
「あ、あぁ…」
「…可能性ですが、現実のシグレさんは今、危険な状態にあるかもしれません」
「危険…?」
鸚鵡返しな俺の言葉にユイは、はい、と頷く。
「ここにいる皆さんが着けているナーヴギアは、脳から発せられる信号を受け取ってアバターを動かしていますが……発せられる信号がナーヴギアで十分に読み取れなかった可能性があります」
「…そんなこと、あるのか?だってあいつは問題なく攻略を続けただろ?」
「だからこそ、です。ゲーム開始時からであれば機械の初期不良の可能性もあります。ですがシグレさんは、この二年はパパの言う通り、問題なく攻略を続けてきました」
シグレの脳から発せられる信号が、ナーヴギアで読み取れない。
機械の初期不良、または故障で読み取れなかったか、ナーヴギアで読み取れるだけの信号が発せられなかったか。
「…シグレさんの意識が弱り、ナーヴギアで読み取れなかった。それはつまり……」
「何らかの理由でシグレは意識を失って、アバターを動かすのに十分な信号が読み取れず、それが頭痛という形で現れた…」
「……はい。杞憂であればいいのですが、現実のシグレさんが何らかの病で意識を失ったのだとしたら…」
「意識を失って信号が読み取れなくなったら、強制解除と判断されて…っまさか!」
強制的に解除しようとしたら、プレイヤーの脳はナーヴギアによって発せられる高出力のマイクロウェーブによって脳が破壊される。
茅場昌彦が、ゲーム初日に全プレイヤーに告げた事実。
「可能性の話ではありますが…パパの話から、度々その症状を起こしているとなると、可能性は高いと思います。通常のゲームであれば危険だと判断されれば強制ログアウトされますが、このSAOは……」
「くそ…!」
おそらく、そうなった場合の結末は、脳の破壊。
そんな事をさせるわけにはいかない。
「…とりあえず、ホロウ・エリアに行く。三人にこの事実を伝えて、攻略を加速させるしかない」
今日はもう夜も遅いが、少なくともシグレ達にはすぐに伝えて、こっちの皆には明日の朝にでも伝えよう。
さすがに夜に皆を起こして話すのは気が引けるし、時間の使い方としてはそれが妥当だろう。
…守るのは、お前だけの専売特許じゃない。
俺も…俺達も、お前を守る。
……死ぬなよ。
*** Side Kirito End ***