ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~   作:アルタナ

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第41話:最悪でない終わりを掴むために

その頃。

 

 

「ちっ……」

 

 

森の中、シグレは一人刀を振るう。

VRだからか、刃こぼれ、という見た目の変化こそないものの、耐久値の警告が出ていた。

それほどしないうちに、この刀は折れる。

そうなれば、丸腰になる。

しかし、ここに来るまでに培った気配感知のスキルが、敵はまだまだ蔓延っている事を伝えてくる。

おそらく、武器はもたないだろう、という推測が容易にできた。

しかし。

 

 

「また、か…っ!」

 

 

その場で頭を押さえて一瞬ふらつく。

刹那、シグレの体が一瞬だけ光のエフェクトともに消えかける。

その度に現れる、システムのメッセージ。

 

『Disconnected. Retry connection...』

 

―接続失敗。再接続を試行―

 

『Connection established successfully.』

 

―接続成功―

 

このホロウ・エリアに来て少し。

管理区に入れるようになってから、頻繁に見るようになったメッセージ。

今のシグレの身に生じている異変と、この文言から、シグレ自身も察しがついていた。

…そう、長くは持たないことを。

頻繁に生じるこの現象が、どういった要因で起きているのかは、シグレ自身にも分からない。

それでも、頻度が上がっている事から、この仮想空間以外、すなわち現実で何かが起きている。

だとすれば、いずれは再接続に失敗する可能性もある。

その瞬間に、自分は脳を焼かれ、死ぬだろう。

このSAOの、絶対不変のルール。

 

 

「……そこを…退け」

 

 

けれど、異常など感じさせぬ気迫のまま、シグレは敵を刀で光の粒に変えていく。

シグレは止まらず、戦い続ける。

仮に、もう長くないとしても。

せめて、この心残りに、決着をつけるために。

 

 

「……っ」

 

 

仮初の世界であろうと、構わない。

後悔を。

未練を、断ち切るために。

どうあっても、戻って来ないものだとしても。

自分の生が、どれだけ血に汚れていようとも。

 

 

「奴だけは、必ず……」

 

 

父を喪い、その後悔と共に生きてきた十数年。

その後悔を晴らす好機が、仮想にはある。

 

 

…手が届く距離に、守りたいものは確かにあった。

 

…その間際に、それは、奪われた。

 

…あの、男によって。

 

…自分が、未熟だったから。

 

 

だからこそ、刀を振るう。

かつては奪われたものを、この世界で取り戻し、ただ、戦い続けてきた。

そうして、奴に出会う。

 

 

…俯せに、血の海に伏す、自分の父親。

 

…背中の、抉られた傷。

 

…血は、止まらず噴き出し続ける。

 

…傷口を起点とした赤黒い染みはやがて服を染め上げる。

 

…時折勢いよく噴き出し、それは服を、肌を伝って地面を濡らす。

 

…そんな地に付す父を見下ろす、男。

 

…その手には、包丁とも短刀とも取れる刃物を持っていた。

 

…その切っ先からは、赤黒いものが滴り、地面を濡らす。

 

…返り血か、その頬を赤黒く染めながら。

 

…その男の表情には、笑みが浮かんでいた。

 

 

「……」

 

 

そこから先は、覚えていない。

ただ覚えているのは、必死に未熟な剣を振り続けた事。

今の今まで、剣を振り続け、ただ一つの安寧を得る事もなく。

それで、全てが終わるというのなら、せめてその前に。

この刀が折れ、この身が朽ちる、その前に。

 

 

「っ…!」

 

 

誰の為でもなく、自分自身の為に。

全てが狂う元凶となったあの男を、殺す。

 

 

その体にノイズを走らせ、今にも消滅してしまいそうになりながらも歩き続けるシグレ。

…そんなシグレの目からは、かつて手に入れかけた優しさは失せていた。


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