ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
シグレが一人、森を駆ける頃。
「っあー、もう!どこまで行ったのよあいつ!?」
走りながら、愚痴るようにフィリアが吐き捨てる。
一番は心配なのだろうが、半ば怒りのようなものすら見て取れる。
その一方。
「シグレ……!」
ストレアは純粋に、余計な感情を漏らすことなくシグレを追い続ける。
追い続けるとはいっても、自分たちがシグレと距離を詰めているという保証はない。
下手をすれば全く逆方向の可能性すらある。
それでも今は、信じて進むしかなかった。
ホロウ・エリア攻略のためではなく、ただ一人を助けるために。
「…とりあえず、私はシグレを見つけたら、一発引っ叩くわ」
「え?」
「散々人に心配かけた迷惑料ってやつ」
それで、とフィリアは続ける。
そんなフィリアの表情は、不敵な笑みが浮かんでいた。
「その後は、シグレの傍で、支えていこうと思う」
ほぼ偶然といってもいい、シグレとフィリアの出会い。
その中で、シグレに助けられ、興味を持った。
シグレという、存在。
ストレアが言うところの、強くも脆い存在。
ホロウ・エリアで一人で戦ってきた経験があっても動けなくなるほどの威圧感を放つシグレ。
そんなシグレに対する興味は尽きるどころか、増していた。
その感情が何なのかが分かったわけではない。
「…あいつが進む先が、人として進んではいけない道だとしても」
もう、迷わない。
もう、放すつもりはない。
どれだけ、突き放されようとも。
どれだけ、拒絶されようとも、伝えたい事がある。
「私は…シグレの味方になる」
シグレには、味方はいる。
そう、フィリアは伝えたいと思っていた。
そんな風に考えていると。
「…そっか」
ストレアが笑顔で。
「フィリアも、シグレの事、好きなんだね!」
そんな風にフィリアに言う。
好き、には色々な捉え方があるとはいえ、シグレに対するストレアの想いを目の当たりにしていたこともあってか。
「んなっ!?」
顔を真っ赤にして、フィリアが声を漏らす。
フィリアは顔が熱くなるのを感じながらも。
「ち、違…私は別にそんなんじゃ…!」
「…違うの?」
恥ずかしさが先に立ち咄嗟に、否定する。
ストレアがきょとんとした感じで尋ね返す。
フィリアはそれには返さなかった。
それでストレアも納得したかは分からないが、それ以上は尋ねなかった。
「……」
言葉としては返さずとも、考えは止まらなかった。
よく小説とかで、本当に好きなら、そうだと認めると心がスッキリするというのを読んだことがある。
正直なところ、VRでも現実でも、恋愛経験はそれほど多くない。
だから、小説のそういう部分は、空想なのではないかと思っていたくらいだ。
「………好き、なのかなぁ」
小声で、呟いてみる。
小声だった事に加え、地面に生える草を踏みしめる音の大きさで掻き消えたか、ストレアには聞こえていないようだった。
言葉に出したからか、いろいろと考えていたことがその言葉で染め上げられていく。
そして、それにフィリアは何一つ違和感を感じなかった。
それどころか、シグレに対する考えの一つ一つに確かな理由が当てはめられたかのようだった。
「…そっか。そうだったんだ」
フィリアは顔だけでなく、胸に感じる温かさを意識しながら納得せざるを得なかった。
小説のその表現は、空想でもなんでもなく、事実なのだと。
「…ストレア。さっきの言葉、取り消すから」
「え?」
ストレアにフィリアは声をかける。
ストレアは何の話なのかの理解が一瞬追い付いていないようだったが、フィリアはそれを待つ事無く。
「私は、あいつが……シグレが、好き。だから追いかけて、シグレの隣で歩んでいきたい」
「…そっか。じゃあ…アタシとはライバルかぁ…手強いね」
「私からすればストレアの方が手強いと思うけど…」
笑顔で返され、フィリアは突っ込むように返す。
しかし。
「…今に見てなさい。そんな笑顔でいられる余裕、今に奪ってあげるから」
「宣戦布告?…でも、そういう事なら、アタシだって負けないから」
「……私だって、トレジャーハンターである以上、狙った獲物は、逃すつもりはないけどね」
互いに、不敵な笑みで視線を交わす。
シグレを巡った、女の戦いの火蓋。
とはいえ、彼女らが仲が悪いというわけでもなく。
「…ならまずは、あいつを見つけないと」
「だね!」
二人は肩を並べ、一つ頷きながら地を駆ける。
そんな二人の走りは、好敵手どころか、阿吽の呼吸。
「でも、アインクラッドにはまだいるよ?」
「やっぱりあいつ…女誑しなんじゃ」
「…でも、アタシは負けないよ」
「私だって…そう簡単には諦めない」
フィリアは、惚れた弱味というものに一つ溜息を吐いた。