ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~   作:アルタナ

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第45話:心の距離

やがて、三人は落ち着いたところで武器を納める。

その空気の中で一番に口を開いたのは。

 

 

「…何故、ここに来た」

 

 

シグレだった。

その口調はいつものように静かなものだったが、微かに苛立ちめいたものをストレアとフィリアは感じていた。

 

 

「俺は言ったはずだ。俺の側に近づくな、と」

 

 

近づかなければ、関わらなければ。

そうすれば、こんな戦いに関わることもなかった。

少なくとも、身の安全は保たれるはず。

シグレはそう、考えていた。

だからこそ、余計に理解できなかった。

 

 

「……どうして、そこまで俺に関わろうとする。大した得もない事は分かっているだろう」

 

 

少なくとも、彼女らを危険な目に遭わせるつもりがないが故の行動。

 

 

「……うん、シグレの言いたいことは、ちゃんと分かってるよ。アタシ達を遠ざけて、守ろうとしてくれた事も」

 

 

ストレアはシグレにそう返す。

シグレはそんなストレアに視線を返す。

ならば何故、と、シグレの視線は物語っているかのように、何も言わずに。

 

 

「でもね。そのやり方じゃ、ダメなんだよシグレ」

「…何?」

 

 

ストレアの言葉にシグレは反射的に返す。

シグレはストレアに視線を向け、ストレアもまたシグレを真剣に見る。

 

 

「…少なくとも、アタシはそれじゃダメ。何でだと思う?」

「……」

 

 

ストレアの問いかけに、シグレは言葉に詰まる。

単に、答えが分からなかったから答えられなかった、というだけである。

ストレアはそんなシグレに、ふふ、と笑みを浮かべ。

 

 

「…うん、答え…教えてあげる。というより…答えを知っててほしいから…シグレ、ちょっとだけ、目を閉じて?」

「?」

 

 

突然俯きながら、少しだけ小さな声で言うストレア。

そんなストレアに疑問符を浮かべながら、言われた通りに目を閉じるシグレ。

 

 

「…動いちゃ、ダメだよ?」

 

 

そんな言葉を聞きながら、何が何やらと考えて、結局答えが出ないシグレ。

 

 

「っ…」

 

 

すると、ふわり、という擬音が似合う感じで温かい何かが包むように。

仮想世界でも感じられる温かさ。

シグレは少なからず、その温かさを知っていた。

その温かさが、口元に触れてくる。

それが何を意味するかが分からないほど、鈍感ではないシグレ。

 

 

「ん……」

 

 

今まで共にいた時間の中で、最も近い距離で聞くストレアの声。

少しして、口元の温かさこそ消えるが、間近に感じられる温かさ。

シグレが目を開けば、目の前には頬を真っ赤に染めるストレア。

その様子に、シグレとて平常心を保てるはずもなく。

 

 

「な…」

「あ、あはは…シグレ、顔真っ赤…」

 

 

動揺から、声を漏らす。

ストレアが揶揄うように言おうとするが、ストレア自身も同じ状況なので強くは言えなかった。

 

 

「…アタシはAIだけど、それでもこれは…確かに、アタシの気持ちなんだって、思ってるよ」

 

 

アスナに言われ、自覚したシグレへの感情。

それは弱まることなく、強くなり続けている。

シグレと話ができないだけで、落ち込むほどに、シグレに依存してしまっている。

それは、純粋な想いとは違うのかもしれない。

その答えは、感情を知って間もないストレアには分からない事。

 

 

「……アタシはね」

 

 

リズベットの店で、聞かれた時。

シグレの事を想いながら、出てくる言葉は、嘘偽りない気持ち。

最初は、ただ傍にいられれば、それだけでいいと思っていた。

けれど、どれだけ傍にいても、どうしてか遠くに感じられた、その理由。

…心の距離が、離れすぎていたからだと。

 

 

「アタシは…シグレの事が……」

 

 

そうだと分かれば、どう解決すればいいか。

問題解決は、ストレアにとっては専門分野。

離れていることが問題だというなら、近づけばいい。

なら、近づくためにはどうすればいいか。

その方法も、ストレアは分かっていた。

 

 

「……好き、なんだ」

 

 

ただ、その想いを伝えればいい。

もし拒絶されたらと思うと、伝えることに対する怖さはある。

それでも、ストレアはただ、伝える。

その伝え方が、効率的な方法ではないとしても。

 

 

「好きだよ、シグレ。大好きなんだよ……!」

 

 

必死に伝えるストレアに対し、シグレはどうしたらいいのか分からなかった。

ストレアが必死に伝えようとする、その大きな想いに気づかないほど鈍感ではなかった。

しかし、どう答えればいいのかが分からなかった。

どうすべきか迷った挙句、ストレアの頭に手を乗せ、撫でるように髪を梳く。

 

 

「……言いたいことは、分かった…だから少し落ち着け」

「うん…」

 

 

女性の髪にそう簡単に触れるものではない、とどこかで聞いた気がする。

けれど、どこか上ずったような声で肩を震わすストレアにシグレが出来ることは、それしかなかった。

 

 

…それ以外の方法を、知らなかった。


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