ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
その後、どのくらい経っただろうか。
やがて20層より上に到達する頃になっても、シグレは単独でのボス撃破を続けていた。
とはいっても全部ではない。
いつ呼ばれるようになったか、攻略に重点を置くプレイヤー達、すなわち『攻略組』の活躍もあった。
シグレも攻略こそ続けているものの、攻略組に属するでもない、所謂ソロプレイヤーだった。
そんなシグレが今いるのは、第11層。
更に言えば、今は一人ではなかった。
「我ら、月夜の黒猫団に、乾杯!」
小さなグラスを手に、5人のプレイヤーがお誕生日席に座るシグレを囲み、一人が音頭をとる。
しかし、皆はグラスを煽らず。
「んでもって、命の恩人シグレさんに、乾杯!」
「………乾杯」
シグレに乾杯、と続ける。
シグレには、さすがに返さないという展開がなかったため、グラスを上げ、乾杯を返す。
皆から口々に礼を言われる。
乾杯をしている計5人はギルドを組んでいる。
ならギルドの皆で乾杯をすればいいのだが、誘われたのだ。
シグレがたまたまフィールドで狩りを行っていたところ、敵に囲まれ窮地に陥っていた彼らを助けた。
たったそれだけ。
「別に礼はいい。たまたま通りかかっただけだからな」
「……そうかもしれない。けど、本当に怖くて…貴方が助けに来てくれて、本当に嬉しかったの」
「…」
命を救ったというのは、彼らにとってみれば本当の事。
けれどシグレからすれば、もう何度と繰り返してきた、モンスターを倒す、というだけの事。
襲われていた時のことを思い出しているのか、恐怖から涙ながらにお礼を言う女性の様子に何も言えないシグレ。
「あの、すみませんシグレさん。失礼だとはわかってるんですが、レベルってどのくらいなんですか?」
ギルドのリーダであろう人物…ケイタに尋ねられ、別に隠す必要もないと思い。
「…ステータス、見るか?」
「えっと……っ…47…俺たちの倍近く…凄いですね」
シグレが隠すでもなく、ステータスを見せる。
誰ともパーティを組むことなく狩りやらNPCやらのクエストやらをこなしていたら自然にここまで上がっていた。
ソロでは限界があるといわれるが、それは少なくとも今ではない。
シグレはそう考えていた。
「…別に、そこまでの事ではない。このレベルでもいずれ近いうちに限界が来る…それと、敬語は別にいい。それが普通の口調だというなら無理強いはしないが」
「そうで…じゃなかった、そっか、ありがとう」
ステータスを閉じながら言うと、ケイタは敬語を直しながら。
「…ところで、もしよければなんだけど、うちのギルドに入ってくれないか?」
「……………ギルドに、俺がか?…見たところ知り合い同士のギルドのようだが」
突然のギルドの勧誘に少し思考がストップする。
「もちろん無理に、とは言わないけど…今うちで前衛って、メイス使いのテツオだけでさぁ…」
ケイタは言いながら隣でグラスを両手に持っているサチの頭をぽんぽん、と叩きながら。
「こいつ、サチっていうんだけど…盾持ちの片手剣士に変更してもらおうと思ってるんだ。でも勝手がよく分からないみたいでさ…よければコーチしてやってほしいんだ」
「…そうは言うが、片手剣とはいえ、盾持ちのやり方は分からないんだが」
コーチの依頼に少し躊躇いが出た。
いくら片手剣とはいえ、盾があるとないとでは勝手が違うはず。
…まぁ、戦闘経験という意味では多少はなんとかなるかもしれないが。
「そうかもしれない、けど少なくとも…シグレがコーチしてくれたら、そこから学べることは多いと思うんだ」
それに、とケイタは続け。
「さっき知り合い同士って言ったけど…察しの通り、同じ高校のパソコン研究部のメンバーなんだ。でも、すぐに溶け込めると思うよ」
「……」
突然の誘いに、シグレは少し考える。
シグレは話している限り、決して悪人という部類ではないだろうと考えていた。
無論、完全に信用出来ているわけではないが、ここまでされて悪人と断ずる程でもなかった。
しかし、ギルドに属すれば、しがらみが増える。
それが一番の悩みだった。
シグレは基本的にソロで、誰の目にも止まらない勢いで最前線に挑んでいた。
ギルドに属すれば、少なくともメンバーに行動が筒抜けになるだろう。
そうすれば攻略組が前線に立つ機会が多くなり、自分でない誰かの死の危険が高まる。
…しかし、今目の前にいる彼らは攻略組以上に危険だろう。
だからせめて、彼らが自分の力で歩むことが出来るようになるまでの間くらいなら。
「…まぁ、宜しく頼む」
慣れない事をするのも、たまにはいいかもしれない。
そう思い、ギルド勧誘を承諾するシグレ。
その返事に、皆は純粋に喜んでいた。
新メンバー歓迎という、乾杯の理由が一つ増えた瞬間だった。