ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
そんな会話の後。
「……」
シグレの膝を枕にストレアは眠ってしまう。
安全地帯というわけでもないのに、不用心な、と思うが、起こすに起こせなかった。
「…安心したのかしら」
「だとしたら…まるで子供だな」
笑いながらストレアの髪を撫でるフィリア。
その様子に、何をするでもなく、けれど膝を占領され動けないシグレ。
「……」
シグレからしてフィリアとストレアの様子は親子、あるいは姉妹のようにも見えた。
そこに自分がいていいものかどうかは、つい考えてしまう。
こうして、ここにいるのが自分でなければ。
ストレアが、想いを寄せる相手が、自分でなければ。
この場にいるのが、自分でなければ。
「…あんたじゃないと、ダメなんだよ。シグレ」
「……」
フィリアに言われ、シグレはフィリアを見る。
「ストレアがこうして幸せそうにしていられるのは、シグレだからだよ。それに…」
「…?」
「私も…ストレアと、同じ」
フィリアは言いながら、シグレの頬に顔を寄せ、軽く触れる。
何が触れたか、等と考えるまでもないが、シグレはそれ以上は考えなかった。
「私も…好き、だから」
「……」
何の冗談、と言いかけ、言葉を止めるシグレ。
目の前で俯きながらも頬を真っ赤にされて、それでもそう言えるほど無頓着ではなかった。
流石に視線を逸らしたいと思いつつも、ストレアに膝を占領され、身を捩ることすら許されないこの状況では逃げられなかった。
……どうしてこうなった、と考えることだけしかできなかった。
「ん……ぅ…?」
やがて、ぼんやりとストレアが目を覚まし。
「…あれ、おはよ。シグレ」
どこか呑気にそう挨拶をするストレア。
シグレもその様子に毒気を抜かれ、ただ溜息を一つ吐き。
「……起きたのなら行くぞ」
「えー、もうちょっとこうしてたいな?」
「ならせめて安全圏内に移動してからにしろ」
「はーい」
シグレとストレアのやりとりにクスクスと笑みを浮かべるフィリア。
渋々といった様子で、ストレアが立ち上がり、それを見てからシグレも立ち上がる。
「…どうする?管理区に戻るの?」
「あぁ」
フィリアの問いにシグレは頷く。
その答えに、ストレアやフィリアは少しばかり意外に感じていた。
これまでの事を考えれば、突き進んでいくものだと考えていたから。
しかし、その問いに対する答えは。
「……俺が何故あいつを狙っているか。ついてくるつもりなら、その説明は必要だろう」
「一緒に行ってもいいの?」
「…突き放してもついてくるのなら、初めから傍に置いていたほうが世話がないからな」
「それもそうだねー」
ストレアの言葉に、シグレの溜息が聞こえた。
おそらく、お前が言うな、といった意味を含んでいるのだろうと、フィリアは思う。
だからといって、シグレから離れる選択肢はなかったが。
「……」
少しばかり歩いたところで、シグレが立ち止まり。
「?」
「シグレ?」
どうしたのかとストレアとフィリアがシグレの様子を窺う。
しかし、返事はなく。
「ぐ……っ!」
体にノイズが走り、シグレは頭を押さえ、その場に蹲る。
その瞬間に見えたのは。
『Disconnected. Retry connection...』
―接続失敗。再接続を試行―
見慣れたメッセージ。
いつもなら、このあたりで頭痛が治まるのだが、今回はそうはならず。
「……グレ、しっ……!」
「っ…!」
頭痛と、頭に響くノイズが誰かが呼びかける声を聞き取る邪魔をする。
『Disconnected. Retry connection...』
―接続失敗。再接続を試行―
再度、同じメッセージが表示される。
こうして、再接続に連続で失敗するのは、初めてだった。
「ちょっ………レ!だい……ぶ…!?」
誰かの声よりも、システムの警告音がいやに耳につく。
『Disconnected. Retry connection...』
―接続失敗。再接続を試行―
それでも、再接続の試行は続く。
これが何度も続くとは考えにくい。
何故なら、接続ができないということは、それが強制解除と認識される可能性があるから。
このSAOでは、そうなればナーヴギアが脳を焼き、生命活動を停止させるようプログラムされている。
しかし。
『Connection established.』
―接続成功―
そのメッセージが表示され、シグレの呻きや、体のノイズが停止して安定する。
それを見て、フィリアは一息。
「…大丈夫、みたいね。全く……」
シグレに触れながら、安心したように言うフィリア。
しかし、ストレアは険しい表情のまま。
「……」
シグレに対して表示されたメッセージをじっと見つめていた。
その先には、接続成功、のメッセージ。
しかし、それには続きがあった。
『Warning: Failed to connect decision making module of player.』
―警告:プレイヤーの意思決定モジュールへの接続に失敗
『Use alternate/backup module to continue gameplay.』
―ゲームプレイ続行のため、代替モジュールを使用します。
表記は英語のみだが、AIであるストレアが理解できないはずもなく。
一方でフィリアもある程度の英語の知識があったため、内容を理解することは出来ていた。
「ちょ、ちょっと…これって」
「…意思決定モジュールは、その人がこういうときはどうする、っていう、文字通り、意思決定をする思考回路のこと。それが読み取れなかったっていうことは…」
「現実のシグレに何かが起こってる?」
「……うん。しかもナーヴギアの強制解除じゃない。シグレ自身に何かが」
でも、とストレアは続ける。
「これがないと、プレイヤーは植物状態になっちゃうでしょ?だから代わりの意思決定を行う回路…それを代替モジュールって呼んでるんだけど、それを割り当てて、とりあえず人のように振舞うようにしたっていうこと」
「……つまり、シグレは目が覚めたら別人みたいになるっていうこと?」
「ううん。基本的にはそのプレイヤーのバックアップデータを割り当てるから変わらないと思う。ただ…」
ストレアは曇った表情のまま、メッセージの最後の文に目を向ける。
つられてフィリアもそこを見ると、目を見開く内容が記されていた。
『Expiration: 19day 23hour 58min 12sec.』
―使用期限:19日23時間58分12秒。
表示を見れば、1秒ずつカウントは進み続ける。
それを見ながら。
「代替モジュールは20日までしか使用が認められてない。つまり…」
「…ゲームクリアをしないと、これが0になったら…」
ストレアの言葉にフィリアが否定して欲しい推測を述べる。
しかし、ストレアはただ目を伏せるのみで、否定も肯定もしなかった。
つまり。
「これが…シグレのタイムリミット」
ストレアは、そう結論付けた。