ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
*** Side Kirito ***
ユイと話をしてからというもの、シグレ達とは会っていない。
理由は大きく二つ。
一つは、こちらの攻略が本格的に進み始め、ホロウ・エリアに行く時間が減っていること。
もう一つは、ホロウ・エリアに行ってもシグレ達がいなかったこと。
皆の余計な心配を減らすため、シグレの事は皆には伝えていない。
その為、シグレを探すのは基本的に一人だった。
その事もあり、管理区から外に出る危険を考えると、管理区で遭遇できなかった場合は諦めるのが妥当だと考えていた。
「……ふぅ」
あれから攻略はそれなりに順調で、現在は86層まで攻略が進んでいた。
幸運なことに、被害者は今のところ出ていない。
しかし攻略自体が楽なわけではなく、危ないことも何度もあった。
「…戻るか」
街中で一つ息を吐き、エギルの店に戻ることにした。
そうして、戻ってみると、耳に入るのは。
「だから、彼は私達の敵ではないと!」
「…っなら75層で奴はあんたに剣を向けた!あんたがあいつを殺してなかったら、敵を増やしていたことになるだろ!」
「くっ…」
言い争いの声だった。
聞き覚えのある女性の声と、聞き覚えのない男性の声。
聞き覚えのある声はアスナで、両方とも攻略組であることは分かっていた。
「…なぁ」
「ん?」
「なんで言い争ってるんだ、あいつら…」
近場にいたケイタに尋ねると。
「…あぁ、ここでちょっとシグレの話題が出てて。75層の事であいつを敵だと思ってる人が言いがかりをつけてる…ってところかな」
「なるほど」
やれやれ、といった感じのケイタだが、やや視線は厳しい。
「…もういい。もしあいつが入るのなら俺…いや、うちのギルドは抜けさせてもらう。余計な面倒ごとは、ごめんだからな」
「っ……」
相手の方も、そこそこに名が通る実力者。
それが故に、ポリシーのようなものがあるのだろう。
それ自体はどうこう言うつもりはない。
けど、今戦力が削られるのは痛いな…
「…お前は確か、『月夜の黒猫団』…だったか」
「どうも」
「お前達も、俺達に協力する気はないか?あんな敵をあてにせずとも我々なら攻略を進められるだろう」
ケイタを見ると、少し悩んだ素振りを見せていた。
現実として、月夜の黒猫団は少人数ギルドながら、ここにきてかなり実力を上げており、それが攻略組の目に留まっていることも知っていた。
「……悪いけど、遠慮するよ。攻略を貴方達で進めるなら、貴方達だけでやってくれ」
「何?」
ケイタの言葉に、相手は少しだけ顰め面をする。
返事が気に入らなかったのだろう。
けれど、ケイタもそれに怯むことなく。
「…理由を聞いても?」
「簡単さ。貴方が、ともに戦う仲間すら信頼できない人だから」
はっきりと返していた。
「こうして攻略組に加わる事は確かに目的だった。けど俺にとっては…一番は仲間の安全だ」
「それは私達だってそうだ。だからこそ敵になりうる存在を遠ざけるために…」
「……なら貴方は、彼の何を知ってると?」
「奴が何であろうと、75層で我々の前に立ち塞がった。それこそが全てだろう」
お互い平行線の言い合いだった。
「…確かにシグレはあの時は敵だったかもしれない。けど、シグレがいなかったら、今ここに『月夜の黒猫団』はなかった」
ケイタが言っているのは、27層の迷宮区のトラップの話だろう。
あの時、俺達が突入した時、あいつは本当に死ぬ寸前だった。
まさに、命を懸けてこのギルドを守ったシグレ。
それはケイタもちゃんと理解していた。
「…それにシグレは、俺達のギルドのメンバーなんだ。うちのメンバーを貶すような事はやめてもらいたいね」
「……どうやら、相容れぬようだな」
「そのようで」
それを最後に、ケイタと言い争っていた男は店を出て行った。
「…あそこまではっきり言いきるとは、思わなかったな」
「いや、攻略組としてはまずかったとは思ってるんだけど…ごめん。仲間を貶されて頭に血が上っちゃって」
ごめんごめん、といった感じのケイタに思わず笑みが零れた。
ギルドのメンバーを、仲間を本当に大切に思うケイタ。
そしてその仲間の中に、周りから敵だと思われる奴がいたとしても見捨てない。
それどころか仲間の為に、自分から敵になる。
「全く…あいつが戻ってきたら、少し首輪でもつけておこうかな?」
「その時は何かアイテムを見繕っておくよ。厄介なメンバーを持つと苦労するな?」
「全くだ」
ケイタと笑いながらそんな会話を交わす。
お前を仲間だとはっきり言いきって、信じてる人がいるってこと。
…まさか、気づいてるよな?
*** Side Kirito End ***