ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~   作:アルタナ

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第48話:終わりへ向けて

気を失ったシグレを支えながら、ストレアとフィリアは管理区に戻る。

 

 

「っ…!」

 

 

シグレに提示された制限時間が、自ずと彼女らを焦らせ、それが疲れという形で還元される。

その焦りに気づかずか、シグレは少しの間眠り続けていた。

 

 

「…ちゃんと起きる…よね?」

「ん…」

 

 

心配するフィリアと、自信なさげに頷くストレア。

その後少しして。

 

 

「…ここは」

「管理区だよ。シグレは…大丈夫?」

「あぁ…それより、このカウントダウンは…」

 

 

シグレが目を覚ましてから、ストレアとフィリアが説明をする。

内容は無論、タイムリミットについて。

普通なら、慌てるかもしれない。

人によっては自棄にだってなりうる。

しかし。

 

 

「……そうか」

 

 

シグレは至極自然だった。

まるで、カウントダウンの意味が分かったので、それで十分と言わんばかりに。

シグレは一つ、息を吐く。

 

 

「…一応聞くが、カウントが0になった場合、どうなる?」

 

 

シグレはストレアに尋ねる。

碌なことにはならないだろう、とシグレは思っていたが。

 

 

「まず、アバターは消滅する。それはつまり、この世界でのシグレが死んで…」

「……現実のシグレも?」

「…HPが0になったプレイヤーと同じに、なる」

 

 

ストレアの説明をフィリアが質問の形で引き継ぎ、ストレアはその質問に頷く。

それはつまり。

 

 

「……状況は把握した」

 

 

シグレはそこで会話を打ち切り立ち上がる。

 

 

「俺がこの場所で果たすべき目的はあと2つだ」

 

 

その手には、しっかりと刀が握られている。

背を向けていたシグレの表情は、二人からは窺えなかったが、見るまでもなかった。

 

 

「…1つ。お前達をアインクラッドに送り返す」

 

 

はっきりと、言い切るシグレ。

 

 

「……無理だよ、だって私は…」

「…その事なんだけど、ユイに聞いてみない?」

「ユイ…?」

 

 

フィリアに対するストレアの提案の中に出てきた聞き覚えのない名前に、フィリアは尋ね返す。

フィリアの問いにストレアは答えず。

 

 

「大丈夫だよ、フィリア」

 

 

それだけ、告げる。

何も心配はいらない、といわんばかりだった。

 

 

「…だって、シグレだもん」

「ストレアのその言葉の根拠がよくわからないけど…」

 

 

何故か、大丈夫かも、と思ってしまったフィリアはそれ以上言葉が続かなかった。

ストレアが思い出すのは、かつてシグレが救ってくれたという事実。

詳しいことを知らないフィリアからすれば疑うのもある意味当然といえば当然だった。

 

 

「…それで、もう一つは?」

 

 

話を先に進めようと、フィリアがシグレに尋ねる。

 

 

「……あの男を。PoHをこの手で殺す」

 

 

それで、全てを終わりにする。

そう、シグレは言い切った。

その口調は、さっきまでとはまるで違う、本気の殺意を感じさせる声色。

ただの一言なのに、二人は軽く背筋に嫌な汗が流れる。

相変わらず、シグレの表情は窺えない。

けれど、窺わなくても。

窺うまでもなく、シグレの言葉は、明らかな殺意に満ち満ちていた。

 

 

「…シグレ」

 

 

その恐怖をものともしないかのように。

あるいは抑え込みながらか、ストレアはシグレの名を呼ぶ。

 

 

「何だ」

 

 

シグレは先を促しながら、振り返る。

その口調は、先ほどまでの威圧感が消えていた。

 

 

「話してくれるって…言ってたよね」

「……」

 

 

シグレとて、うろ覚えではあったがそれを忘れたわけではない。

しかし、今となって思うのは。

 

 

「…聞く意味があるのか」

 

 

それだけだった。

どうせ、この世界のどこかで、限界がきて自分は消える。

そんな奴の過去を知って、どういう意味があるのか。

たとえ好いていようと、知る必要のないことを知り、無駄に負担をかけるだけなら知る意味はない。

そう、シグレは考えていた。

しかし。

 

 

「……あるよ」

 

 

答えたのは、フィリアだった。

自分の胸に手を当て、思い返すように目を伏せながら。

 

 

「たとえシグレがもうすぐ消えるとしても、ここで何もしないで見送ったら、私は…ううん、私たちは絶対一生後悔する」

 

 

そう、言葉を紡ぐ。

不思議と、その言葉には迷いはなかった。

 

 

「…シグレが私を助けてくれたように、私もシグレの力になりたい。ただそれだけの事なんだ」

「余計な負担を背負うことになってもか」

 

 

はっきりと、シグレの目を見据えて話すフィリアにシグレが質問で返す。

その問いかけに、フィリアは揺らがなかった。

 

 

「アタシもそうなんだよ?シグレが助けてくれたから、こうしていられるんだもん。シグレの為だったら何だってするつもりだよ?」

「……」

 

 

フィリアとストレアに言われ、結局折れたのはシグレだった。

2対1で敵う術はなく。

 

 

「……お人好しだな」

「類は友を呼ぶ、って知ってる?」

 

 

溜息交じりのシグレの言葉に、フィリアが切り返す。

それに対する返しを思いつかなかった時点で、シグレの負けだった。


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