ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
*** Side Kirito ***
あれから数日。
俺は、ある一つの決心をする。
「…シノン、ちょっといいか」
「?」
今、いるのは89層のフィールド。
ここで、俺達はモンスターの狩りを続けていた。
シノンのレベル上げを手伝う形ではあるが、今ではシノンも十分に実力をつけていた。
レベルは層と同じ89。
少し不安こそ残るが、弓という特殊な武器をすっかり使いこなしていて、今では積極的に手伝うことは少なくなっていた。
「…どうしたのよ、真剣な顔して。相談なら街に戻ったほうがいいんじゃないの?」
「そう…だな。狩りはもういいのか?」
「えぇ。回復アイテムも尽きそうだし、丁度いいわ」
そんな感じで、アイテムの補充も兼ねて、一度街に戻る事にした。
そして、そこで俺はユイとした話をシノンにも伝える。
憶測ばかり、しかも当たってほしくない憶測の話だが、可能性がある以上。
そして、シノンがここに来た目的である以上、話さないわけにはいかなかった。
「…それってつまり、現実の先輩は…」
シノンはそこで言葉を切る。
よく見ると、少し顔色が悪いような…気がする。
VRでそんなことが起こりうるのかは微妙なところだが。
おそらくその先に続くのは最悪の想像だろう。
本当なら否定したいが、俺もその可能性を否定する理由がない。
安心させるために嘘を言うべきなのかもしれない。
けど、シグレのことに関して、シノンに嘘を言いたくなかった。
詳しく聞いたわけじゃないけど、只管に、2年あいつの事を純粋に待ち続けたシノンには。
「……シグレほどじゃないかもしれないが、現実の俺たちも危険なことに変わりはない。だからこそ俺達も攻略を加速させなきゃならない」
だからこそ、俺は否定もせず話を続ける。
それを察したのか、シノンも何も言わない。
「でもそれは、あいつの方も同じだ。けどこっちは人数がいる。だけどあいつらは…三人しかいない」
圧倒的な戦力差。
それを埋めるためには、一番早いのはシグレ側の戦力増強。
言うのは簡単だが、攻略に対して俺たちがいる側のリスクが増えるのは言うまでもない。
けど。
「…だから、頼む。俺もあいつを…守りたいと思ってるけど、手が足りない。だから…俺の分まであいつを助けてやってくれないか」
俺はシノンに頭を下げる。
別にシグレだけに限った話じゃない。
ストレアも、フィリアも、過ごした時間が長くないとしても、守りたい。
その思いが通じたか、あるいは言うまでもなかったのか。
「分かった。先輩達は……私が助ける」
「…ありがとう」
「私はそもそも、そのためにこの世界に来たんだもの…言うまでもないわ」
どうやら後者だったらしい。
「…なら、準備ができたら言ってくれ。向こうにはアイテムショップもない。それに向こうで戦うとなると少しレベルも不安だからな、気を付けてくれ」
「分かってる。3分で支度をするわ」
準備を促すと、シノンはすっと歩き出して人混みに紛れていく。
おそらくアイテム補充だろう。
3分とは言ってたけど、さすがに3分じゃ戻らないだろう。
…と思ってたら。
「…戻ったわ」
「早いな…」
「3分って言ったじゃない」
まぁ正確に測っちゃいないが、体感的には2分くらいだった気がするぞ。
そんなに問題でもないけども、それはそれとして。
「じゃあ、行こうか…シグレのところへ」
「えぇ…」
シノンを連れて、ホロウ・エリアへ。
「…やっと。先輩…」
後ろを歩く、シノンの声が聞こえた。
でもきっと、聞こえないふりをした方がいいのだろう。
そう思い、俺は振り返ることもなく、転移門を目指した。
*** Side Kirito End ***