ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
ホロウ・エリア。
その中で数少ない安全地帯、管理区。
「……」
話す、とはいったものの、余計な負担をかけまいとするシグレなりの気遣い。
それと、どこから話すべきか、といった現実的な問題。
それが、シグレがなかなか話し始めない理由だった。
そんな事を悩んでいると。
「…シグレ」
転移門から聞き覚えのある声がシグレを呼ぶ。
その声の主は。
「…キリト。と……」
キリトとシノン。
尤も、シノンに関してはシグレは気付かなかった。
「…覚えてないのか?」
キリトが尋ねるが、シグレは疑問符。
「まぁ、そうよね…」
シノンは溜息を一つ。
覚えてくれていなかった事は残念と思いながらも、一方で仕方がない事とどこかで諦めていたのだろう。
改めてシグレに向き直り、キリトより少し前に出て。
「私にとっては違うけれど、貴方にとっては…初めまして、でいいのかしら?」
「…さて、な」
シノンの挨拶に、シグレは彼女をじっと見る。
その視線は、暗に何者かを探るかのような疑いを含んでいるように見えた。
それが、シノンには懐かしく見えた。
…あの時と、彼は変わっていないのだろう、と。
「…私は、シノン。あの時……郵便局で、初めて会ったのだけど…覚えているかしら」
「……」
そこまで言われ、ふとシグレは思い返す。
郵便局での事は、忘れようもない。
シグレが拠り所の一つを失う理由となった、強盗事件。
結果的には、その犯人を自分が撃ち殺し、事件そのものは終息した。
あの場で、会った、という表現が当てはまるのは、シグレの中には一人しか覚えがない。
「……あの場で会った、とすると…俺に礼を言ってきた…」
「っ…覚えていて、くれたのね…」
シグレが呟くと、シノンはシグレに笑顔を向ける。
男性なら誰でも見惚れてしまいそうなそれではあるが、そこで動じないシグレだったが。
「…SAOをプレイしていたか……」
世間は狭いな、等と考えるシグレだったが。
「いや…そういうわけじゃないんだ」
「…?」
キリトの否定に、シグレはキリトを見る。
「…彼女は…シノンは、途中からログインしてきたんだ」
「途中から…?」
「あぁ。実際、ログインしたのは一月前くらいだ」
キリトの言葉に、シグレはますます疑問だった。
一ヶ月前ともなれば、さすがにこのSAOが普通のゲームではないと認知されているだろうと、ゲームの中にても察しがつく。
実際、このゲームがデスゲームであることを突き付けられた初日ですら、200人前後は死んでいた。
だとすれば、このゲームをプレイすれば現実に死ぬ危険があることを分かっていながら、ここに来た、という事になる。
「…俺はずっとこの世界にいるが、外ではSAOが普通ではないことは広まっていただろう」
「えぇ…それはもう。未だにこのゲームに関する報道は続いてる……さすがに開始直後ほど騒いではいないけど」
シグレの問いに、シノンは耳にタコができそうになった、と軽く苦笑する。
しかし、それに同調することもなく。
「…何の為に」
「……先輩を、この世界から、救う為に」
シグレが尋ねる事に、シノンは迷うことなく、一言一言を確実に告げる。
先輩、という単語に引っ掛かりを覚えたシグレだったが、それは話を続けるシノンによって質問を遮られた。
「このゲームのサービスが始まってから、私は毎日…は無理だったけど、少なくとも二、三日に一回はお見舞いに行ってた」
いつか、目を覚ましてくれると信じて。
いつか、無事に戻ってきてくれると信じて。
無事に戻ってきてくれたら、改めて自己紹介ができると信じて。
それを、二年。
「…二年待ち続けても、戻ってこなくて…諦めかけた時に、キリトの妹さんに話を聞いて…ここに来たのよ」
「何故そこまでする…」
シグレが溜息を吐きながら疑問を口にする。