ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
シグレの疑問にシノンは迷いなく。
「…今、私がこうして生きていられるのは、先輩がいたからだと思ってる」
別にそんなことはないだろう、と思うシグレだが、シノンの言葉が続く。
「あの時の事は忘れなさいって、周りに何度も言われたわ。でも…あの時、私を含めた皆を守ってくれた貴方を忘れることは……私にはできなかった」
「……言いたいことは分かった。だがそれは、命を懸ける理由にはなるまい」
シグレにも、シノンの感謝の意は伝わっていた。
しかし、それは自分が命を懸ける理由にはならない。
助かったのなら、平穏に暮らせば良かったのではないか。
そう、シグレは考えたのだが。
「なるわ。少なくとも私にとっては…ね」
そう、シノンは言い切った。
「私は…先輩に救われたから、今こうして、生きていられるんだって…思ってる。だから、私の人生全てを先輩に捧げるつもり」
胸に手を当て、目を閉じて紡がれるシノンの言葉が、シグレは少しだけ重く感じたが、言葉にはしなかった。
どう言葉にすべきか思いつかなかった、ともいう。
「…でもね。だからといって先輩に何かをしてほしい、なんて思ってないの。ただ、貴方の傍で、貴方と同じ景色を見ていられれば、それだけで」
シノンは目を開き、シグレをじっと見る。
シグレからすればどこまで本気で言っているかは半信半疑だったが。
「私にとって…先輩は今の私の全て。貴方が信じる人は、私も信じる。貴方の敵は…私の敵。貴方が殺す相手は…私にとっても殺す対象」
そこまで言われれば、さすがに信じざるを得なかった。
「…幻滅しても、責任は持てないが」
「私が、先輩に?ありえないわ。責任だったら…もっと別の意味でとってくれたら嬉しいけど」
「……深く詮索はしないでおく」
シグレは内心、大丈夫なのかこれは、と思っていたが、真顔で言ってのけるシノンに眉間を押さえた。
よくよく考えれば、命の危険があることを分かっていながらこのゲームに途中参戦するほど。
今、ここにいる時点でシノンがいかに本気であるかを察するべきだった。
これ以上何かを聞くと、現実でいうところの胃が痛くなるのでは、と懸念し、シグレはそれ以上は何も言わなかった。
「…ここでは、シノン、と名乗ってるわ。よろしく…先輩」
「……シグレだ」
「現実と同じなのね」
「まぁ…な」
シノンの苦笑に、シグレは返す言葉もなかったが。
「…それより、気になっていたが…その『先輩』というのは何だ?」
「仕方ないじゃない。名前を知らなかったんだもの…本当はあの時名前を聞きたかったけれど、すぐに警察に行っちゃったじゃない」
それで、とりあえず、といった感じなのだろうと察する。
「それは名乗らなかった俺が悪いのか…?」
「…ど、どうだろう…な」
シグレがキリトに尋ねれば、キリトも詰まりながら反応する。
兎にも角にも。
「…今はまだまだ未熟かもしれないけど、いつかは先輩の隣に立って、貴方を支えられるように頑張るから。よろしく、先輩」
「………あぁ」
そうして、二人は握手を交わす。
その近い距離に。
「…強敵?」
「……かも、ね」
ストレアとフィリアもそんな反応をする。
割って入れない何かを感じ、ただ見ているだけしかできなかったが、ジッと二人の様子を見ていた。
そんな中。
「…ところで、シグレは大丈夫か?何だかんだ、調子悪そうなことあったろ?」
「……」
転換された話題にシグレは少し考え、ストレアとフィリアを見やる。
その視線に気づいてか、ストレアは頷く。
シグレはそれに何か反応を返すこともなくキリトに向き直り。
「…少し、話しておきたいことがある。時間はあるか?」
「あぁ、まぁ大丈夫だ。攻略会議があるから長居はしないけど…」
「…問題ない。こちらもそんなに長話をする暇がないからな」
「どういうことだ?」
キリトがシグレの言い方に疑問を感じながら先を促す。
ストレアの補足を交えながら、シグレはキリトとシノンに告げた。
シグレ自身に課せられた、時間制限の話。
その時間の中で、これからどうするかという話を。