ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~   作:アルタナ

166 / 251
第52話:先に待つ絶望 - I

話し始めるのは、シグレからだった。

 

 

「…まず先に言うが、シノン」

「何?」

「お前の目的が俺にあるのだとしたら…もう、手遅れだ」

 

 

表情一つ変えずに言うシグレ。

シノンは少しばかり訝しげな視線をシグレに向ける。

シグレはそれに気づいてか気づかずか、メニューの操作をする。

少しして、シグレの傍に表示されたのは。

 

 

『Expiration: 15day 12hour 01min 32sec.』

 

 

赤いウィンドウと、何かを表す時間。

それは1秒毎に減っていっている。

それが何かを知っているストレアとフィリアは辛そうに見るが、知らないキリトとシノンは疑問だった。

 

 

「…それ、何だ?そんな表示初めて見たぞ」

 

 

システム操作で表示されたのだとして、これまでSAOでずっと過ごしたキリトですら知らない機能。

その疑問を投げかけると、シグレはただ、表情一つ変えずに。

 

 

「これは…俺に残された時間、だそうだ。このカウントが0になった瞬間、HPが0になろうがなるまいが、俺のアバターは消滅するらしい」

 

 

ストレアから聞いた話だが、と補足しながら淡々と述べる。

その言葉に、キリトは勘づく。

 

 

「…ちょっと待て、もしそうなったら」

「あぁ」

 

 

このSAOでは、HPが全損すると、アバターが永久消滅する。

そして、同時にナーヴギアがプレイヤーの脳を焼く。

HPが残っていようとアバターが消滅するとしたら。

…最悪の可能性に至るまで、時間はかからなかった。

キリトは勿論、ここに来てそれほど時間が経っていないシノンですらも至った、最悪の可能性。

 

 

「ちょ、ちょっと待って。どうしてそんな事に…!」

 

 

シノンが慌てたように問いかける。

 

 

「…プレイヤーとナーヴギアの接続は2方向の見方があるんだ」

 

 

それに続いたのは、シグレではなく、ストレアだった。

いつもの明るい表情はどこへやら、真剣な面持ちだった。

 

 

「まず一つは、ナーヴギアからプレイヤーの脳へのアウトプット。HPが0になったら、っていうのはこれだよね」

 

 

指を一本立てながら、ストレアは話す。

HPが0になったらナーヴギアが高出力マイクロウェーブを発するように命令を出す、SAOのゲームプログラム。

SAOのゲームプログラムからナーヴギアへ、ナーヴギアからプレイヤーへ。

アウトプット…出力方向。

 

 

「そしてもう一つは…インプット」

 

 

更に一本指を立て、ストレアは続ける。

従来は手で持つコントローラによって、プレイヤーはゲームの操作をしていた。

しかしそれは結局、脳からの指示で手が動き、その操作をゲームプログラムが解釈する。

ナーヴギアという機械は操作を脳、つまり思考によって行うが根本は変わらない。

つまり、プレイヤーからナーヴギアへ、ナーヴギアからSAOのゲームプログラムへ。

インプット…入力方向。

 

 

「…このカウントダウンは、インプットが不安定になったときに起こるの。つまり…何らかの原因で、シグレの脳からの信号を読み取れなかった」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。読み取れないってことはナーヴギアが強制解除されたって事か?そんな事が…」

 

 

あるはずがない、とキリトは言いかける。

言いかけて、気付いた。

そう、あるはずがないのである。

もしそうすれば、アバターが消滅し、即座に脳を焼いてしまうから。

それは初日に茅場が言ったことであり、200人以上のプレイヤーが消滅する原因にもなった。

忘れるはずがない。

 

 

「…そうだよ、キリト。そういう事じゃない」

 

 

ストレアはただ、淡々と事実を述べる。

 

 

「シグレはナーヴギアと接続をしていながら、脳からの信号を読み取れない状態っていうこと」

「……でも、それなら今ここにいる先輩は何なのよ?そこに問題が起きたら、すぐに脳が焼かれるんでしょ?」

 

 

ストレアの言葉に、シノンが疑問を投げる。

けれど、そこはさすがにSAOで活動をするAIだけあって、迷うことはなかった。

 

 

「普通ならね…けど、この状況は、シグレ自身の問題なのか、ナーヴギアの問題なのか分からない」

 

 

だから、特例として20日間の猶予が与えられる。

そう、ストレアは続けるだけだった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。