ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
話し始めるのは、シグレからだった。
「…まず先に言うが、シノン」
「何?」
「お前の目的が俺にあるのだとしたら…もう、手遅れだ」
表情一つ変えずに言うシグレ。
シノンは少しばかり訝しげな視線をシグレに向ける。
シグレはそれに気づいてか気づかずか、メニューの操作をする。
少しして、シグレの傍に表示されたのは。
『Expiration: 15day 12hour 01min 32sec.』
赤いウィンドウと、何かを表す時間。
それは1秒毎に減っていっている。
それが何かを知っているストレアとフィリアは辛そうに見るが、知らないキリトとシノンは疑問だった。
「…それ、何だ?そんな表示初めて見たぞ」
システム操作で表示されたのだとして、これまでSAOでずっと過ごしたキリトですら知らない機能。
その疑問を投げかけると、シグレはただ、表情一つ変えずに。
「これは…俺に残された時間、だそうだ。このカウントが0になった瞬間、HPが0になろうがなるまいが、俺のアバターは消滅するらしい」
ストレアから聞いた話だが、と補足しながら淡々と述べる。
その言葉に、キリトは勘づく。
「…ちょっと待て、もしそうなったら」
「あぁ」
このSAOでは、HPが全損すると、アバターが永久消滅する。
そして、同時にナーヴギアがプレイヤーの脳を焼く。
HPが残っていようとアバターが消滅するとしたら。
…最悪の可能性に至るまで、時間はかからなかった。
キリトは勿論、ここに来てそれほど時間が経っていないシノンですらも至った、最悪の可能性。
「ちょ、ちょっと待って。どうしてそんな事に…!」
シノンが慌てたように問いかける。
「…プレイヤーとナーヴギアの接続は2方向の見方があるんだ」
それに続いたのは、シグレではなく、ストレアだった。
いつもの明るい表情はどこへやら、真剣な面持ちだった。
「まず一つは、ナーヴギアからプレイヤーの脳へのアウトプット。HPが0になったら、っていうのはこれだよね」
指を一本立てながら、ストレアは話す。
HPが0になったらナーヴギアが高出力マイクロウェーブを発するように命令を出す、SAOのゲームプログラム。
SAOのゲームプログラムからナーヴギアへ、ナーヴギアからプレイヤーへ。
アウトプット…出力方向。
「そしてもう一つは…インプット」
更に一本指を立て、ストレアは続ける。
従来は手で持つコントローラによって、プレイヤーはゲームの操作をしていた。
しかしそれは結局、脳からの指示で手が動き、その操作をゲームプログラムが解釈する。
ナーヴギアという機械は操作を脳、つまり思考によって行うが根本は変わらない。
つまり、プレイヤーからナーヴギアへ、ナーヴギアからSAOのゲームプログラムへ。
インプット…入力方向。
「…このカウントダウンは、インプットが不安定になったときに起こるの。つまり…何らかの原因で、シグレの脳からの信号を読み取れなかった」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。読み取れないってことはナーヴギアが強制解除されたって事か?そんな事が…」
あるはずがない、とキリトは言いかける。
言いかけて、気付いた。
そう、あるはずがないのである。
もしそうすれば、アバターが消滅し、即座に脳を焼いてしまうから。
それは初日に茅場が言ったことであり、200人以上のプレイヤーが消滅する原因にもなった。
忘れるはずがない。
「…そうだよ、キリト。そういう事じゃない」
ストレアはただ、淡々と事実を述べる。
「シグレはナーヴギアと接続をしていながら、脳からの信号を読み取れない状態っていうこと」
「……でも、それなら今ここにいる先輩は何なのよ?そこに問題が起きたら、すぐに脳が焼かれるんでしょ?」
ストレアの言葉に、シノンが疑問を投げる。
けれど、そこはさすがにSAOで活動をするAIだけあって、迷うことはなかった。
「普通ならね…けど、この状況は、シグレ自身の問題なのか、ナーヴギアの問題なのか分からない」
だから、特例として20日間の猶予が与えられる。
そう、ストレアは続けるだけだった。