ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
それに異を唱えたのは、シノン。
「ちょっと待って。私は入院してる先輩のお見舞いをしていたけど…体に異常があるようには見えなかったわよ?」
「…ここに来るまでは、な」
そんなシノンの言葉を拾ったのは、シグレ自身。
シノンが見ていた間は、問題がなかったとしても、その後に何かあったかどうかは分からない。
「その後でナーヴギアに問題が生じたか、あるいは俺自身に何かが起きたか…誰にも分からない」
ただ、分かっているのは、シグレに時間制限が課せられているということ。
それだけは、紛れもない事実だった。
「…いずれにしても、このカウントが0になった瞬間、俺が消滅することは避けられないようだ」
「暇がないっていうのは、そういう事だったのか…」
シグレの言葉にキリトは頷きながらも納得がいかないのか、吐き捨てるように言う。
「…ストレアさん、だっけ…聞いてもいいかしら」
「ストレアでいいよ。何?」
シノンがストレアに問いかける。
その内容は。
「…先輩を助けるには、どうしたらいいのか教えて」
キリトからすれば、どこかで案の定、といえるものだった。
それは、キリト自身も思っていたから、といえるのかもしれないが。
「……方法は、シグレのカウントが0になる前に、SAOをクリアする事。そうすればカウントダウンどうこうの問題なく、ナーヴギアは解除されるから」
ストレアの答えは至極単純。
しかし、それは決して簡単なことではない。
それは、この場にいる全員がわかっていたこと。
「だったら、攻略を進めれば…!」
「…あと15日半」
「っ…!」
キリトが言うが、シグレが告げる時間制限に言葉が詰まる。
あと半月で、100層のボスを撃破。
それがいかに大変か分からないキリトではなかった。
皆が言葉に詰まる中、シグレは息を一つ吐き。
「……どうにもならないものを無理をして、無駄に死人を増やす必要はあるまい」
それは、俺一人で十分だ。
シグレはそう告げる。
「…それにこれが、今までの罪の清算だというのなら、俺は受けなければならない」
「罪って…?」
シグレの言葉に疑問を続けたのはフィリアだった。
その問いに対し。
「…お前は知っているだろう」
シグレはフィリアではなく、シノンに言葉を投げかける。
「…あの事件で俺が何をしたかを、見たお前なら」
「っ…」
あの事件。
それは、シノンがシグレを意識するきっかけとなった事件。
その場で、シグレが何をしたか。
シグレの過去の話を聞いたキリトとストレアも、気づいてしまった。
その様子を確認し、唯一知らないフィリアに対し。
「俺は、現実でも人を殺した」
「……え?」
シグレの言葉に、フィリアは思わず尋ね返す。
いきなり何を、とフィリアは思うが。
「事実よ。5年前の郵便局の強盗事件で…先輩は犯人が持っていた銃を奪って、迷いなく犯人を撃ち抜いた」
「っ…」
「…っけどあの時先輩がああしていなかったら、犠牲者が出ていたかもしれない」
突然の事実にフィリアは言葉を失う。
これまで、行動を共にして、何度も助けてくれたシグレが。
仮想でも、現実でも…人を殺したという事実。
その事実が呑み込めず、その後のシノンの言葉が、どこか遠くに聞こえていた。