ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~   作:アルタナ

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第53話:先に待つ絶望 - II

それに異を唱えたのは、シノン。

 

 

「ちょっと待って。私は入院してる先輩のお見舞いをしていたけど…体に異常があるようには見えなかったわよ?」

「…ここに来るまでは、な」

 

 

そんなシノンの言葉を拾ったのは、シグレ自身。

シノンが見ていた間は、問題がなかったとしても、その後に何かあったかどうかは分からない。

 

 

「その後でナーヴギアに問題が生じたか、あるいは俺自身に何かが起きたか…誰にも分からない」

 

 

ただ、分かっているのは、シグレに時間制限が課せられているということ。

それだけは、紛れもない事実だった。

 

 

「…いずれにしても、このカウントが0になった瞬間、俺が消滅することは避けられないようだ」

「暇がないっていうのは、そういう事だったのか…」

 

 

シグレの言葉にキリトは頷きながらも納得がいかないのか、吐き捨てるように言う。

 

 

「…ストレアさん、だっけ…聞いてもいいかしら」

「ストレアでいいよ。何?」

 

 

シノンがストレアに問いかける。

その内容は。

 

 

「…先輩を助けるには、どうしたらいいのか教えて」

 

 

キリトからすれば、どこかで案の定、といえるものだった。

それは、キリト自身も思っていたから、といえるのかもしれないが。

 

 

「……方法は、シグレのカウントが0になる前に、SAOをクリアする事。そうすればカウントダウンどうこうの問題なく、ナーヴギアは解除されるから」

 

 

ストレアの答えは至極単純。

しかし、それは決して簡単なことではない。

それは、この場にいる全員がわかっていたこと。

 

 

「だったら、攻略を進めれば…!」

「…あと15日半」

「っ…!」

 

 

キリトが言うが、シグレが告げる時間制限に言葉が詰まる。

あと半月で、100層のボスを撃破。

それがいかに大変か分からないキリトではなかった。

皆が言葉に詰まる中、シグレは息を一つ吐き。

 

 

「……どうにもならないものを無理をして、無駄に死人を増やす必要はあるまい」

 

 

それは、俺一人で十分だ。

シグレはそう告げる。

 

 

「…それにこれが、今までの罪の清算だというのなら、俺は受けなければならない」

「罪って…?」

 

 

シグレの言葉に疑問を続けたのはフィリアだった。

その問いに対し。

 

 

「…お前は知っているだろう」

 

 

シグレはフィリアではなく、シノンに言葉を投げかける。

 

 

「…あの事件で俺が何をしたかを、見たお前なら」

「っ…」

 

 

あの事件。

それは、シノンがシグレを意識するきっかけとなった事件。

その場で、シグレが何をしたか。

シグレの過去の話を聞いたキリトとストレアも、気づいてしまった。

その様子を確認し、唯一知らないフィリアに対し。

 

 

「俺は、現実でも人を殺した」

「……え?」

 

 

シグレの言葉に、フィリアは思わず尋ね返す。

いきなり何を、とフィリアは思うが。

 

 

「事実よ。5年前の郵便局の強盗事件で…先輩は犯人が持っていた銃を奪って、迷いなく犯人を撃ち抜いた」

「っ…」

「…っけどあの時先輩がああしていなかったら、犠牲者が出ていたかもしれない」

 

 

突然の事実にフィリアは言葉を失う。

これまで、行動を共にして、何度も助けてくれたシグレが。

仮想でも、現実でも…人を殺したという事実。

その事実が呑み込めず、その後のシノンの言葉が、どこか遠くに聞こえていた。


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