ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~   作:アルタナ

169 / 251
第55話:決意 - II

今のシグレが放つ雰囲気は、まるで別人のようで。

昔を知っているシノンですら、一瞬声をかけるのを躊躇ってしまう。

それほどまでに、シグレが内に秘めたものが大きく見えていた。

 

 

「…それでも」

 

 

ストレアは一歩、シグレに近づき。

また一歩、近づく。

コツ、コツと足音が静かに響く。

 

 

「たとえどうであっても、アタシはシグレの味方であり続けるよ。あいつがシグレの敵なら、アタシにとっても敵」

 

 

シグレが殺すつもりなら、アタシも殺すつもりで。

そう、ストレアは迷わずに言う。

シグレは毒気が抜かれ、いつのまにか隣にいたストレアに視線を向ける。

 

 

「………」

「…あれー?なんでそんな意外そうかな」

 

 

いかに自分の価値観がずれているかは分かっている。

それでもこういう風にしかする方法が分からない。

だからこそ、シグレは一人で戦おうとしたのだが、隣にいる彼女には意図が伝わらなかったのか。

一方のストレアは、シグレの表情に疑問符。

 

 

「…さすがに、今のシグレが正しい、とは思わない。けど、それでも…アタシはシグレの味方であり続けたい」

 

 

今のシグレを否定しつつも、味方である。

つまり、ストレアはシグレと共に、誤った道に落ちると、そう宣言していることになる。

 

 

「……馬鹿か」

「あ、ひっどい」

 

 

溜息交じりのシグレに、ストレアはむぅ、と頬を膨らます。

けれど、すぐに戻し。

 

 

「たとえどんなに間違った道でも、その先に希望があるかどうかなんてわからなくても…いいの」

 

 

それほどまでに、シグレに依存しているって、分かってるから。

アタシを助けてくれた、守ってくれたあの日から。

その思いは、ずっと変わらない。

…変えられない。

たとえここが仮想で、シグレが現実に戻って共にいられないとしても。

せめてこの世界にいる間は、シグレとの思い出を作って、最後には思い出と共に消えていきたい。

それがたとえどれだけ歪んでいたとしても、そこにシグレがいれば、きっと最後には素敵な思い出になるから。

もう、シグレがいない世界、というのが考えられなくなっていたから。

 

 

「…だから、どんな結末が待っていたとしても、アタシはシグレの隣にいたい」

「いずれ来るタイムリミットで俺は死に、やがてお前は一人になる。それでもか」

「聞かなくても、分かるでしょ?」

 

 

シグレの確認するような問いに、当然といわんばかりに返すストレア。

これまでの付き合いからか、ストレアの答えに察しがついてしまうシグレ。

 

 

「たとえそうだとしても、アタシは最期まで、シグレの傍にいたい…一人になんて、させてあげないよ?」

 

 

いい笑顔のストレアに、シグレはいよいよ反論を諦める。

聞く人によっては、あまりに歪んだ、あまりに純粋すぎる想い。

 

 

「…ううん、違う」

 

 

独り言のように、何かを否定しながらシグレの正面に向かい合うストレア。

そのまま距離を詰め。

 

 

「…シグレを一人にさせたくない。それもあるけど、それよりも…アタシが、一人はもう…嫌なの……!」

 

 

縋るように、倒れこむようにシグレに身を寄せる。

今までに何度かあった事を、思い出しているのかもしれない。

ストレアを置いて、一人で攻略をしようとした事。

74層のボスに体を貫かれ、意識不明に陥った事。

75層で、アスナに貫かれ、死んだと思われていた事。

その一つ一つが、ストレアという少女の心に深い傷を残していた。

喪うことに対する、恐怖に似た感情。

それがストレアのシグレに対する想いと複雑に絡み合っていた。

 

 

「……」

 

 

縋ってくるストレアに対し、シグレは何もしない。

それほどの想いを向ける先が、自分でさえなければ、ストレアにこれほどの思いをさせることもきっとなかったのだろう。

そう、シグレは思う。

しかし。

 

 

「…過去は変えられない、か」

 

 

どれだけ過去を憂いだところで、何も変わらない。

そして、そのきっかけを作ったのは、他でもないシグレ自身。

かつて、現実で人を殺したことも。

結果的にとはいえストレアを救ったことも。

だとすれば。

 

 

「……分かった」

 

 

シグレが折れるのは、ある意味では必然だった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。