ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
その後、数日。
新メンバーのシグレを含めたギルドメンバーの皆で近くのフィールドでの戦闘訓練。
皆が皆、戦いにおいては課題を抱えていた。
月夜の黒猫団の皆は、単純な戦闘力。
新規に加入したシグレに比べれば、彼らの力は劣っていた。
特にサチは、その臆病な性格が災いし、特に戦いに慎重になっていた。
盾持ち片手剣士への転向に不安を覚えるレベルだった。
一方で、シグレの課題は、複数人数の戦闘に慣れること。
シグレはこれまで基本的にソロプレイでパーティも組んだことがまるでないため、『スイッチ』すら知らない。
ある意味初心者が行う練習レベルの事をせざるを得なかったのだ。
「シグレ、スイッチ!」
「っ…」
テツオの掛け声にシグレが少し遅れて反応し、入れ替わる。
テツオがモンスターの攻撃を跳ね上げていたおかげで、容易に懐に入り込み、一閃。
シグレの剣がモンスターの急所を捉え、光の粒に変えた。
「……」
シグレは息をつきながら、腰に携えた鞘に剣を収める。
「さすが、といったところだな、シグレ」
「…この程度、俺でなくともできるだろう」
ケイタの賛辞にシグレはため息交じりに返す。
またまたぁ、といった感じで、スイッチをしたテツオ、それを傍らで見ている程度だったササマル、ダッカーも混ざってくる。
その様子を遠巻きに、苦笑しながら見ているサチ。
周りのモンスターを一掃した所で、ほのぼのした雰囲気が広がっていた。
「…ところで、サチはいいのか?」
場の空気を変えるように、シグレがサチに視線を向けるが。
「…わ、私はいいかな。ちょっとまだ…怖くて」
「……そうか。まぁそれでいいなら、俺は何も言わんが」
シグレの言葉に対するサチの答えにシグレはそれ以上追求しなかった。
何かをやる上で、本人の決意が揺らいでいるのなら、やる意味がない。
シグレはそう思う部分があったからこそ、無理強いはしなかった。
「つってもさー、いつまでもテツオとシグレに前衛任せるわけにもいかないだろ?」
「そんなこといっても…いきなり前に出るなんて、おっかないよ…」
それに、普通のゲームならいざしらず、HPが0になれば現実での死に直結するこのゲームでは、慎重すぎるくらいで丁度いい。
シグレが強制しなかったのにはそういった部分もある。
「あ、だったらさ、シグレに稽古つけてもらえば?」
ササマルが思いついたように提案する。
「…えぇ、そんな無茶だよ!シグレと戦うなんて…」
サチが慌てて否定する。
レベル差を考えて、だろうか。
とはいえ、それはササマルもわかっていたはずで。
「いや、そうじゃなくてさ。圏内ならHPは減らないだろ?それで道場みたいな場所で、戦ってみるとか」
「…あー、なるほど。敵に向かってく時のシグレおっかないし、そういう意味でか」
「そうそう」
傍から見ていたササマルとダッカーが名案だとばかりに話を続ける。
それにはテツオも同調し。
「いいな、それ。シグレ相手の隙突くの上手いし、剣での戦い方って意味ならいい先生になってくれそうだな」
三人がいいね、といった感じである。
それに溜息をついたのはケイタで。
「お前らな…そんなこと言ったって、当人が了承しなかった意味ないだろ」
「……」
ケイタがシグレとサチに視線を向ける。
一方のシグレはサチに視線を向ける。
シグレからすれば、結局のところサチにその気があるかどうかが一番大切であると考えていたからである。
そうなると、サチの答えに皆の関心が集まるが。
「う……」
一気に視線を向けられ、軽く言葉を詰まらせるサチ。
そんな彼女が次に発した言葉は。
「……そ、そろそろお昼休憩…どう?」
訓練とは関係のない提案だった。