ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
それ以上はないと思っていたシグレ。
そして、これ以上の問答も、全てが不要だと言わんばかりに。
「……これが最後の通告だ」
シグレはそう、言葉を続ける。
その視線は殺気こそ抜けているが、冗談などない口調で。
「…俺は奴を殺すつもりでここにいる。邪魔をするつもりなら…たとえお前たちだろうと、俺は容赦なく切り捨てる。それが嫌なら、ついて来ないことを勧める」
シグレは容赦なく言い放つ。
ストレアは、何も言わない。
シグレが本気だと察したのか、それとも別の理由か。
それはストレア自身にしか分からないことだが。
「……」
シグレはそもそも大所帯にするつもりもなく、離れるならむしろそちらの方がいいと思っていた。
これまで、シグレは一人だったからこそ。
誰かと肩を並べて戦うことを知らない。
だからこそ、とシグレは考えていた。
「…何、それ」
それに反応したのは、フィリア。
その口調からは、少しばかり怒りが汲み取れる。
それを隠すつもりもないのか、シグレに勢いよく歩み寄り。
「っあんたは…なんで、なんでそうなのよ!?」
勢いよくシグレの胸倉を掴む。
突然の行動にシグレも反応しきれずに言葉を失う。
「そりゃ私も驚いたわよ!あんたは私を守ってくれた、助けてくれた…けど!」
一瞬言葉が詰まるフィリア。
シグレは何も言わず、フィリアに視線をやる。
しかし、少しばかり俯いており、表情は窺えない。
「今は…シグレっていう存在が、よく分からないよ」
フィリアの中で、いつの間にか少しだけ大きくなっていた、シグレという存在。
自分を危険から救ってくれたことは紛れもない事実。
その一方で、人を殺したことがあるという伝え聞いた事実。
フィリアには真逆な側面を併せ持つように見えていた。
だからこそ、どちらが本当のシグレなのか。
「…ねぇ、教えてよ。私を助けてくれたシグレ。人を何人も殺したシグレ……どっちが本当のシグレなの」
縋るようなフィリアの問い。
シグレはただフィリアを見る。
いつの間にかフィリアの視線はシグレに向けられていた。
「俺は…」
「……いい、やっぱり言わないで」
しかし、フィリアは自分で投げかけた問いに対する答えを遮る。
「どうせ、あんたの事だから。助けたことは全力で否定すると思ってる」
「……」
シグレは押し黙る。
やっぱり、とフィリアは呆れ半分、苦笑半分といった様子だったが。
「どうせシグレの事だから。そうやって私たちを遠ざけようとすることぐらい、いくら付き合いが短くても分かるよ」
今までそうやって振り回されてたんだから。
そう、フィリアは続ける。
その表情はどこか吹っ切れていたというべきか、あるいは悟っていたというべきか。
「……それにね。私は、あんたが人殺しだとしても、それを信じる理由がない」
この世界に限っていえば、私だって同じことをした。
そう、自分のカーソルを指しながらフィリアは言う。
「だから…見極めたい。あんたが本当に狂った殺人鬼なのか、そうじゃないのか」
「……」
「…だから、私はあんたと一緒に進む。進んで…真実を見つける」
ただ、見極めるために。
シグレの本当を見つけるために。
「…それに、ストレアに負けてばっかりはいられないしね」
「言うねぇフィリア。アタシだって負けないよ?」
シグレから視線を外し、そんな会話を交わすフィリアとストレア。
さっきまでの雰囲気はどこへ行ったのか。
シグレはまた一つ、溜息を吐いた。