ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
少しの静寂の後。
「なら、私は…アインクラッドに、戻る」
「…いいのか?シグレと一緒じゃなくても」
そう、告げたのはシノンだった。
その発言に、キリトは少なからず驚いたようにシノンを見る。
無理もない反応だった。
何故なら、半ば自棄ともいえるペースで自分を強化したのは、シグレに会うため。
そう、本人が言ったのだから間違いはない。
そのシノンが、シグレから離れるという選択をしたのだ。
多少は驚きもするというもの。
「…言っておくけど、ちゃんと考えてるわよ?」
キリトの視線に心外、と言わんばかりのジト目を向けながら、シノンは続ける。
「さっきの話が本当なら、今先輩は危険な状態、ということでしょう?なら少しでも早く終わらせるために、キリトに協力したほうがいいと判断しただけ」
「そうか。そうだな…」
シノンの言葉にキリトも頷く。
そんな二人に、シグレをはじめ、ストレアもフィリアも、何も言わない。
シグレの事を置いても、ゲーム攻略は実力ある攻略組にとっては最優先事項。
実力をつけるために活動する中で、シノンもその域に至ったのか、とキリトも内心驚いていた。
「…それに」
シノンに思うところはまだあるらしく、言葉が続く。
「今ここで先輩に甘えてもいいけど、どうせなら現実に戻ってからの方がいいから。その方が時間が沢山とれそうじゃない?」
「……?」
少し空気が変わった感じに、シグレはシノンを少しばかり訝しげに見る。
その視線に気づいてか。
「…先輩以外の男なら私の矢の餌食にするけど、先輩ならむしろどんどん見てほしいわね」
「……」
シノンの言葉に、シグレは一つ溜息。
どうにも、締まらないというか、何というか。
「呆れてる先輩も、素敵……」
割と本気に言っているように見えるシノン。
「そ、それはともかく…シノン。現実に戻ったらっていっても、シグレと住んでるところ近いかどうかも分からないんじゃ…」
キリトが持ち直し、シノンに尋ねるが、シノンはといえば何も問題がないといわんばかりに。
「大丈夫よ。だって、同じ場所だもの」
「……は?」
「もう、これは運命といってもいいかもしれないわ。きっとそう」
シグレの反応もどこ吹く風といった感じで、どこか自分の世界に入っているシノン。
どこか宙を見上げるシノンの目には何が映っているのだろうか。
少なくともシグレは思考を放棄することにしていた。
とはいえ、放置するわけにもいかず。
「…シノン」
シグレがそう声をかけると、シノンはそれに反応し。
「あ…先輩。子供は何人がいいかしら」
「……」
その瞬間、声をかけなければよかった、とシグレは一瞬思う。
キリトに視線を向けるシグレだが、あっさりと視線を逸らされてしまう。
ストレアとフィリアに至っても、ほぼ同じ反応で。
「……その話は後にしろ。とりあえず、戻って攻略をするなら戻ったらどうだ」
「…えぇ」
シグレに諭され、ようやく現実に戻った感じのシノンに、シグレは一息をつく。
「…とりあえず、戻るから。またな、シグレ」
「とにかく…無茶は程々にしてよね、先輩」
「……」
またな、というキリトの挨拶。
それは、再会を前提とした挨拶。
それにシグレは返さない。
シノンの言葉にも、シグレは返さない。
それに対し、キリトは呆れるような苦笑で。
シノンは心配そうな表情で、シグレを見ながら、転移をしようと転移門に近づく。
「…キリト」
「?」
「あいつらに伝えておけ。俺のことは忘れろ…とな」
シグレの言う、あいつら。
それがキリトには大体想像はついていた。
だからこそ。
「お断りだ。伝えたいことがあるなら、ちゃんと生き残って…自分で伝えろ」
キリトはそう返す。
やれやれ、と何もかもを見透かしたようなキリトのその視線に。
「……」
シグレはそれ以上は何も言わず、キリトに背を向ける。
それにキリトはもう一つ苦笑をしながら、シノンと共にアインクラッドへと戻っていくのだった。
暫く無言のシグレ。
「……」
目を閉じ、何かを考えているようにストレアとフィリアには見えた。
何を考えているかまでは分からない。
ただでさえ考えを表に出さないシグレだから尚更ではあった。
そんなシグレに何か声をかける間もなく。
「…行くぞ」
誰に言ったでもなく、まるで自分自身に言うようにシグレは呟きながら、転移門へと歩いていく。
それに少し遅れながら二人もついていく。
直後、転移門から三つの光が発し、その場からは誰もいなくなった。
「…」
直後に管理区に響く足音。
その音を聞いた者は、誰もいない。