ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~   作:アルタナ

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第59話:本当の戦い - II

このSAOにおけるプレイヤー間の不文律。

すなわち、暗黙のルール。

何があっても、相手のHP全損だけはさせない。

そうなれば、現実でも本当に死んでしまうから。

 

 

「そんなんで死神なんてよく名乗れるなァ!?」

「ちっ……」

 

 

PoHは嗤いながら包丁を振るう。

人という素材を料理するのを愉しむかのように。

振り下ろされた包丁はシグレのHPを少しずつ削っていく。

 

 

「…っ」

 

 

それでも、冷静にシグレもPoHを捉え、着実にHPを削っていく。

ひゅう、と口笛を吹きながら致命傷を避けるPoHに決定打こそ与えられないが、それでも互角に振舞っていた。

 

 

「それとも何か?そこで麻痺ってるgirlsを守ろうってか?お前が?」

「……ほざけ。俺はお前を殺すために、こうしているだけだ」

「OKOK。ま、お前を殺した後は、あの二人も苦しませずに殺すからよ。すぐに向こうで会えるから、安心しろや、HAHAHA!」

 

 

互いの切っ先は、相手を傷つけることを厭わず、HPを削り続けていく。

けれど、二人の勢いは止まることはない。

静かな場に響く音は。

金属がぶつかり合う音、布を切り裂く音、傷をつける音。

血こそ流れないが、現実なら互いに血塗れであろう事は容易に想像がついた。

一瞬の瞬きですら許されないほどの緊迫感の中、二人は戦い続ける。

その先にいずれかの死があったとしても、止まらない。

 

 

…麻痺で動きを封じられ、ただ二人の戦いを見ることになった二人は。

 

 

「っ…シグ、レ……!」

 

 

何とか、立ち上がろうと力を入れているのか、途切れ途切れにシグレの名を呼ぶストレア。

しかし、システムの力は大きく、彼女自身の体は僅かにも動かない。

システムに抗うことがいかに大変な事かは、この中ではある意味ストレアが最も理解している。

しかし、それでも。

 

 

「う、ごいてよ…助けなきゃ、シグレ……っ!」

「ストレア…」

 

 

近くで倒れていたフィリアからは、いかにストレアが力を入れているかが表情から見て取れた。

それだけやっても、指一本すら動かないというシステムの制約はあまりに強かった。

それでも諦めないストレアに、フィリアは辛そうに彼女の名を呼ぶ。

 

 

「無茶だよ、ストレア…この世界の麻痺は、そう簡単には…!」

「…っそれでも!…もう、嫌なの!」

「っ…」

 

 

フィリアの制止すら撥ねつけるように、ストレアは泣きそうな声で反論する。

あまりの強さに、フィリアは一瞬言葉を詰まらせる。

その驚いた様子を気にも留めず、ストレアは続ける。

 

 

「もう、嫌なんだよ…シグレが死んじゃうような目に遭うのも…!シグレがいない世界で辛い思いをするのも……!」

 

 

やがて、限界が来たのか、力を入れるのをその場に伏すストレア。

代わりに、彼女の双眸からは涙が溢れ始めていた。

 

 

「…アタシは、守るって、決めたのに…!アタシを助けてくれたシグレを…この命に代えても守るって、決めたのに……!!」

 

 

目の前で戦うシグレを助けられない。

ただ見ていることしかできない。

それがストレアにはあまりに歯痒く、あまりに苦痛で。

 

 

「なんで、アタシじゃ助けられないの…!?」

 

 

そんな悲痛なストレアの声が届いていたかどうか。

少なくとも今は、確認のしようがなかった。

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