ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
このSAOにおけるプレイヤー間の不文律。
すなわち、暗黙のルール。
何があっても、相手のHP全損だけはさせない。
そうなれば、現実でも本当に死んでしまうから。
「そんなんで死神なんてよく名乗れるなァ!?」
「ちっ……」
PoHは嗤いながら包丁を振るう。
人という素材を料理するのを愉しむかのように。
振り下ろされた包丁はシグレのHPを少しずつ削っていく。
「…っ」
それでも、冷静にシグレもPoHを捉え、着実にHPを削っていく。
ひゅう、と口笛を吹きながら致命傷を避けるPoHに決定打こそ与えられないが、それでも互角に振舞っていた。
「それとも何か?そこで麻痺ってるgirlsを守ろうってか?お前が?」
「……ほざけ。俺はお前を殺すために、こうしているだけだ」
「OKOK。ま、お前を殺した後は、あの二人も苦しませずに殺すからよ。すぐに向こうで会えるから、安心しろや、HAHAHA!」
互いの切っ先は、相手を傷つけることを厭わず、HPを削り続けていく。
けれど、二人の勢いは止まることはない。
静かな場に響く音は。
金属がぶつかり合う音、布を切り裂く音、傷をつける音。
血こそ流れないが、現実なら互いに血塗れであろう事は容易に想像がついた。
一瞬の瞬きですら許されないほどの緊迫感の中、二人は戦い続ける。
その先にいずれかの死があったとしても、止まらない。
…麻痺で動きを封じられ、ただ二人の戦いを見ることになった二人は。
「っ…シグ、レ……!」
何とか、立ち上がろうと力を入れているのか、途切れ途切れにシグレの名を呼ぶストレア。
しかし、システムの力は大きく、彼女自身の体は僅かにも動かない。
システムに抗うことがいかに大変な事かは、この中ではある意味ストレアが最も理解している。
しかし、それでも。
「う、ごいてよ…助けなきゃ、シグレ……っ!」
「ストレア…」
近くで倒れていたフィリアからは、いかにストレアが力を入れているかが表情から見て取れた。
それだけやっても、指一本すら動かないというシステムの制約はあまりに強かった。
それでも諦めないストレアに、フィリアは辛そうに彼女の名を呼ぶ。
「無茶だよ、ストレア…この世界の麻痺は、そう簡単には…!」
「…っそれでも!…もう、嫌なの!」
「っ…」
フィリアの制止すら撥ねつけるように、ストレアは泣きそうな声で反論する。
あまりの強さに、フィリアは一瞬言葉を詰まらせる。
その驚いた様子を気にも留めず、ストレアは続ける。
「もう、嫌なんだよ…シグレが死んじゃうような目に遭うのも…!シグレがいない世界で辛い思いをするのも……!」
やがて、限界が来たのか、力を入れるのをその場に伏すストレア。
代わりに、彼女の双眸からは涙が溢れ始めていた。
「…アタシは、守るって、決めたのに…!アタシを助けてくれたシグレを…この命に代えても守るって、決めたのに……!!」
目の前で戦うシグレを助けられない。
ただ見ていることしかできない。
それがストレアにはあまりに歯痒く、あまりに苦痛で。
「なんで、アタシじゃ助けられないの…!?」
そんな悲痛なストレアの声が届いていたかどうか。
少なくとも今は、確認のしようがなかった。