ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~   作:アルタナ

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第60話:本当の戦い - III

そんなストレアの必死さを見ていたからか。

 

 

「多分…そんなストレアだから、じゃないかな」

 

 

フィリアは少しばかり、冷静に状況を見ていた。

戦いの場から離れたところで、動くことができない状況でも。

それでも二人を見ながら。

 

 

「きっと、ストレアだったらそう考えるって…あいつは分かってたんじゃないかな」

「……」

「私はシグレじゃないから、はっきりは分からないけど…」

 

 

これまで平和なんてほとんどない、このホロウ・エリアで共に行動してきて。

その中で、自分がどれだけシグレの背中を見ていたか。

どれだけ、戦いの矢面にシグレが立っていたかを見ていたからこそ、そう思う。

 

 

「あいつは、邪魔だから、って言ってたけど…きっと、それは違う」

 

 

シグレという一人の人の事は分からないことが多いけど、こと戦いに関しては、無知じゃない。

共に戦ってきたからこそ。

 

 

「きっと、あいつは…ストレアを守りたかったんだと思う。だからきつい事を言って、麻痺までさせて…この戦いに参加させなかった」

 

 

その言葉に、ストレアは思う。

考えてみれば、シグレはいつもそうだった。

75層で、アスナと戦った時も。

74層で、ボスに体を貫かれた時も。

かつて笑う棺桶のアジトに二人で向かった時も。

初めて会ったとき、雪の中でフィールドボスに一度は殺された時も。

シグレは、いつも、誰かと肩を並べていなかった。

あるいは、それよりもずっと前から。

 

 

「…そっか、そうかも。アタシ…ずっと、シグレに守られてたんだ…」

 

 

危険から遠ざけさせ、いざ危険が迫ったら、全力で助けようとする。

システムに消されそうになった時も、無茶苦茶な方法とはいえ助けてくれた。

だからこそ、今ここに、こうして生きていられる。

ストレアは、そう思う。

 

 

「あいつ…馬鹿だよね。本当に馬鹿。誰かを守る事ばっかなくせに、人の気持ちなんてちっとも考えやしない」

 

 

馬鹿というか、勝手というか。

そういう事に、いくら何でも疎すぎやしないだろうか。

そう、フィリアは思う。

 

 

「でも…きっと、フィリアの言う通りだと思うよ」

「ストレアが言うなら、間違いないかな?」

「うん。それと、シグレはフィリアも守ろうとしてるんだね」

 

 

アタシとおんなじだもんね、とストレアは少しだけ辛そうに笑う。

 

 

「…そう、かな」

 

 

ストレアの言葉に、少し恥ずかしげに返すフィリア。

だとすれば、どれだけ素直じゃないのだろう。

でも、どれだけ素直じゃないとしても、全力で誰かを守る優しさを持ってるシグレだからこそ。

 

 

「何が、人殺しよ…」

 

 

シグレが人殺しである事は事実なのだろう。

少なくとも、シノンが言っていたことは間違いではないはず。

だとしても、それも結局、彼女を含めた、その場にいる人を守るためにやった事。

それが正しい、とは口が裂けても言えないけど、それで守られた人がいるのも事実。

だからこそ。

 

 

「…ただ、不器用なだけじゃない……」

 

 

今回のことを含めても、もう少しやり方があったんじゃないかとフィリアは思う。

そのやり方は分からないとしても、これだけの戦いができるくせに。

それだけの力があるくせに、それを自分の為に使わない、そのやり方が。

 

 

「本当に、もう…!」

 

 

怒りのようなものがこみ上げる。

けれど、何とか奴に勝って、生き残ってほしいと思う。

 

 

「バカ、なんだから…」

 

 

生き残って。

もう一度話をして、文句を言わせて。

今のやり方じゃ、少なくとも私の…私達の心は瀕死の重傷だと。

もう少し、考えて、と。

それがいかに勝手な事なのかは、分かっている。

けれど、そう、言ってやりたいと思うのは、悪いことだろうか。

…依然、麻痺は解けそうにない。

自分のステータスを表示する箇所に表示される、麻痺を表す雷のマークが鬱陶しい。

それを歯痒く思っていると。

 

 

「…随分、あいつのこと見てるじゃねェか」

 

 

背後から聞こえる、どこかで聞いたような声。

そして、歩み寄ってくる、足音。

 

 

「あのFool Guyに言いたいこと言ってやりな。Crazy Girls?」

 

 

そして、次の瞬間、鬱陶しい雷のマークが消え、体が軽くなる。

フィリアがストレアを見れば、ストレアも同じなのか、体が動いていた。

いったい誰が。

そう思い、声のした方を見て。

 

 

「え…?」

「なんで……!?」

 

 

驚きと警戒を露に、二人は声の主を見る。

そこにいたのは、今シグレが戦っているはずの。

 

 

 

…笑う棺桶のリーダーであり、シグレが討とうとしている、PoH本人だったから。


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