ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
そんなストレアの必死さを見ていたからか。
「多分…そんなストレアだから、じゃないかな」
フィリアは少しばかり、冷静に状況を見ていた。
戦いの場から離れたところで、動くことができない状況でも。
それでも二人を見ながら。
「きっと、ストレアだったらそう考えるって…あいつは分かってたんじゃないかな」
「……」
「私はシグレじゃないから、はっきりは分からないけど…」
これまで平和なんてほとんどない、このホロウ・エリアで共に行動してきて。
その中で、自分がどれだけシグレの背中を見ていたか。
どれだけ、戦いの矢面にシグレが立っていたかを見ていたからこそ、そう思う。
「あいつは、邪魔だから、って言ってたけど…きっと、それは違う」
シグレという一人の人の事は分からないことが多いけど、こと戦いに関しては、無知じゃない。
共に戦ってきたからこそ。
「きっと、あいつは…ストレアを守りたかったんだと思う。だからきつい事を言って、麻痺までさせて…この戦いに参加させなかった」
その言葉に、ストレアは思う。
考えてみれば、シグレはいつもそうだった。
75層で、アスナと戦った時も。
74層で、ボスに体を貫かれた時も。
かつて笑う棺桶のアジトに二人で向かった時も。
初めて会ったとき、雪の中でフィールドボスに一度は殺された時も。
シグレは、いつも、誰かと肩を並べていなかった。
あるいは、それよりもずっと前から。
「…そっか、そうかも。アタシ…ずっと、シグレに守られてたんだ…」
危険から遠ざけさせ、いざ危険が迫ったら、全力で助けようとする。
システムに消されそうになった時も、無茶苦茶な方法とはいえ助けてくれた。
だからこそ、今ここに、こうして生きていられる。
ストレアは、そう思う。
「あいつ…馬鹿だよね。本当に馬鹿。誰かを守る事ばっかなくせに、人の気持ちなんてちっとも考えやしない」
馬鹿というか、勝手というか。
そういう事に、いくら何でも疎すぎやしないだろうか。
そう、フィリアは思う。
「でも…きっと、フィリアの言う通りだと思うよ」
「ストレアが言うなら、間違いないかな?」
「うん。それと、シグレはフィリアも守ろうとしてるんだね」
アタシとおんなじだもんね、とストレアは少しだけ辛そうに笑う。
「…そう、かな」
ストレアの言葉に、少し恥ずかしげに返すフィリア。
だとすれば、どれだけ素直じゃないのだろう。
でも、どれだけ素直じゃないとしても、全力で誰かを守る優しさを持ってるシグレだからこそ。
「何が、人殺しよ…」
シグレが人殺しである事は事実なのだろう。
少なくとも、シノンが言っていたことは間違いではないはず。
だとしても、それも結局、彼女を含めた、その場にいる人を守るためにやった事。
それが正しい、とは口が裂けても言えないけど、それで守られた人がいるのも事実。
だからこそ。
「…ただ、不器用なだけじゃない……」
今回のことを含めても、もう少しやり方があったんじゃないかとフィリアは思う。
そのやり方は分からないとしても、これだけの戦いができるくせに。
それだけの力があるくせに、それを自分の為に使わない、そのやり方が。
「本当に、もう…!」
怒りのようなものがこみ上げる。
けれど、何とか奴に勝って、生き残ってほしいと思う。
「バカ、なんだから…」
生き残って。
もう一度話をして、文句を言わせて。
今のやり方じゃ、少なくとも私の…私達の心は瀕死の重傷だと。
もう少し、考えて、と。
それがいかに勝手な事なのかは、分かっている。
けれど、そう、言ってやりたいと思うのは、悪いことだろうか。
…依然、麻痺は解けそうにない。
自分のステータスを表示する箇所に表示される、麻痺を表す雷のマークが鬱陶しい。
それを歯痒く思っていると。
「…随分、あいつのこと見てるじゃねェか」
背後から聞こえる、どこかで聞いたような声。
そして、歩み寄ってくる、足音。
「あのFool Guyに言いたいこと言ってやりな。Crazy Girls?」
そして、次の瞬間、鬱陶しい雷のマークが消え、体が軽くなる。
フィリアがストレアを見れば、ストレアも同じなのか、体が動いていた。
いったい誰が。
そう思い、声のした方を見て。
「え…?」
「なんで……!?」
驚きと警戒を露に、二人は声の主を見る。
そこにいたのは、今シグレが戦っているはずの。
…笑う棺桶のリーダーであり、シグレが討とうとしている、PoH本人だったから。