ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~   作:アルタナ

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第61話:本当の戦い - IV

一方で、ソードスキルの一つもない、言ってしまえば泥臭い戦い。

それでも、二人は止まらず、互いに刃を向けるのを止めない。

 

 

「HAッ!」

「っ…」

 

 

それでも、若干PoHが押しているだろうか。

シグレは刀の効果でステータスを底上げしているが、PoHはそんな様子がない。

つまり、シグレの底上げされた力よりも、PoHの方が上手ということになる。

その状況が数十分は続いただろうか。

 

 

「ぐっ…!」

 

 

シグレのSPが尽きたのか、動きが止まる。

体が重くなる感覚。

立っているのもやっとになり、刀を地面に突き刺して体を支える。

 

 

「おいおい、俺からのpresentは使わねぇのか?」

「……誰が貴様の物なぞ」

 

 

PoHの言葉に、シグレは吐き捨てるように言いながら、半ば押し付けられた回復薬を地面に放る。

回復薬は光の粒となって消える。

 

 

「別にそりゃいいが…その有様じゃ、殺されるしかねェな?」

「……もとより、そういう戦い…だろう」

 

 

PoHの言葉に、刀で体を支えながらその場に膝をつき、肩で息をするシグレ。

刀でステータス強化した戦い方で無理をしすぎたのだろうか。

ゲームなのにそんな事もあるのか、等と今更ながらに考える。

 

 

「んじゃま…死ねや」

 

 

武器が風を切る音が、シグレの耳に届く。

終わりか。

何故か冷静にそんなことを考えながら、目を閉じる。

 

 

 

…しかし。

 

 

「…残念ながら、そういうわけには、いかねェんだよなぁ?」

 

 

さっきまで殺しあっていた男とまったく同じ声で。

同じようなフード付きの外套をつけた男が、シグレに背を向けて。

シグレにとどめを刺そうとする一撃を、自らの武器で受け止めていた。

 

 

「……?」

 

 

その状況には、さすがにシグレも疑問符が浮かぶ。

目の前には、自分が殺そうとしていた男が、『二人』いたのだから。

 

 

「どういう、ことだ…?」

「…答えてやるつもりはねェな。まぁ、とりあえず…テメェはさっさと行け」

 

 

シグレは状況が掴み切れず、目の前のPoHに疑問をぶつけようとしたが。

 

 

「行くよ、シグレ!」

「な…!?」

 

 

フィリアに手を引かれ、ストレアに刀を奪われ。

シグレは体に力が入らなかったことと、麻痺が解けているとは思わなかったという油断から、なすがままに引っ張られていった。

 

 

 

そうして、シグレ達が去った後。

 

 

「…おいおい、『俺』がなんで楽しいParty timeを邪魔するんだ?」

「あ?…『俺』なら分かるだろうがよ。あいつは『俺』の獲物だからだ」

 

 

二人のPoHはそんな言葉を交わす。

鍔迫り合いから互いを弾いて距離を置いたところで。

 

 

「随分腑抜けたもんだなぁ?『俺』はただの殺し屋だろ?」

「……」

 

 

揶揄するような言葉に、答えない。

口元から笑みは消えていた。

 

 

「あぁ…さすが『俺』だ。まったくもってその通りだが…」

 

 

そう、言いながら斬りかかる。

当然、当たり前のように受け止められ、刃は届かないが。

 

 

「ここであいつが殺されたら……約束を果たせなくなっちまうだろうが」

 

 

PoHの言う約束というのが何なのか。

それはPoH自身にしか分からない。

 

 

「だから俺は『俺』らしく…てめぇを殺すことにする」

 

 

フードの隙間から覗く眼光。

それは、どこかシグレに似て、けれど、恐怖で寒気を感じさせる程の何かを秘めていた。

それほどの何かにも関わらず、PoHは楽しそうに口笛を吹きながら。

 

 

「OK、俺もお前が邪魔だと思ってたところだ。丁度いい!」

「…ここからが本当のParty timeだ。アンコールはなしで行こうぜ?」

 

 

狂気で歪んだ笑みを口元に浮かべながら。

再び、金属音が響き渡る。

…戦いは役者を変え、尚も続く。


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