ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
一方で、ソードスキルの一つもない、言ってしまえば泥臭い戦い。
それでも、二人は止まらず、互いに刃を向けるのを止めない。
「HAッ!」
「っ…」
それでも、若干PoHが押しているだろうか。
シグレは刀の効果でステータスを底上げしているが、PoHはそんな様子がない。
つまり、シグレの底上げされた力よりも、PoHの方が上手ということになる。
その状況が数十分は続いただろうか。
「ぐっ…!」
シグレのSPが尽きたのか、動きが止まる。
体が重くなる感覚。
立っているのもやっとになり、刀を地面に突き刺して体を支える。
「おいおい、俺からのpresentは使わねぇのか?」
「……誰が貴様の物なぞ」
PoHの言葉に、シグレは吐き捨てるように言いながら、半ば押し付けられた回復薬を地面に放る。
回復薬は光の粒となって消える。
「別にそりゃいいが…その有様じゃ、殺されるしかねェな?」
「……もとより、そういう戦い…だろう」
PoHの言葉に、刀で体を支えながらその場に膝をつき、肩で息をするシグレ。
刀でステータス強化した戦い方で無理をしすぎたのだろうか。
ゲームなのにそんな事もあるのか、等と今更ながらに考える。
「んじゃま…死ねや」
武器が風を切る音が、シグレの耳に届く。
終わりか。
何故か冷静にそんなことを考えながら、目を閉じる。
…しかし。
「…残念ながら、そういうわけには、いかねェんだよなぁ?」
さっきまで殺しあっていた男とまったく同じ声で。
同じようなフード付きの外套をつけた男が、シグレに背を向けて。
シグレにとどめを刺そうとする一撃を、自らの武器で受け止めていた。
「……?」
その状況には、さすがにシグレも疑問符が浮かぶ。
目の前には、自分が殺そうとしていた男が、『二人』いたのだから。
「どういう、ことだ…?」
「…答えてやるつもりはねェな。まぁ、とりあえず…テメェはさっさと行け」
シグレは状況が掴み切れず、目の前のPoHに疑問をぶつけようとしたが。
「行くよ、シグレ!」
「な…!?」
フィリアに手を引かれ、ストレアに刀を奪われ。
シグレは体に力が入らなかったことと、麻痺が解けているとは思わなかったという油断から、なすがままに引っ張られていった。
そうして、シグレ達が去った後。
「…おいおい、『俺』がなんで楽しいParty timeを邪魔するんだ?」
「あ?…『俺』なら分かるだろうがよ。あいつは『俺』の獲物だからだ」
二人のPoHはそんな言葉を交わす。
鍔迫り合いから互いを弾いて距離を置いたところで。
「随分腑抜けたもんだなぁ?『俺』はただの殺し屋だろ?」
「……」
揶揄するような言葉に、答えない。
口元から笑みは消えていた。
「あぁ…さすが『俺』だ。まったくもってその通りだが…」
そう、言いながら斬りかかる。
当然、当たり前のように受け止められ、刃は届かないが。
「ここであいつが殺されたら……約束を果たせなくなっちまうだろうが」
PoHの言う約束というのが何なのか。
それはPoH自身にしか分からない。
「だから俺は『俺』らしく…てめぇを殺すことにする」
フードの隙間から覗く眼光。
それは、どこかシグレに似て、けれど、恐怖で寒気を感じさせる程の何かを秘めていた。
それほどの何かにも関わらず、PoHは楽しそうに口笛を吹きながら。
「OK、俺もお前が邪魔だと思ってたところだ。丁度いい!」
「…ここからが本当のParty timeだ。アンコールはなしで行こうぜ?」
狂気で歪んだ笑みを口元に浮かべながら。
再び、金属音が響き渡る。
…戦いは役者を変え、尚も続く。