ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~   作:アルタナ

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第62話:誓い

戦いが始まる頃。

 

 

「はぁ、はぁ…」

「…ここまで来れば、大丈夫だよね」

 

 

少しの間全力疾走したせいか、息を切らすストレアとフィリア。

そんな二人に。

 

 

「…どういうつもりだ」

 

 

シグレは詰め寄る。

 

 

「俺は言ったはずだ。邪魔をすれば殺す…と」

 

 

覚悟は出来ているのだろうな。

シグレの目はそう語っていた。

けれど、もはや二人はそんなシグレの勢いに怯むこともなく。

 

 

「…出来ないよ。シグレにアタシ達は…殺せない」

「……」

 

 

真剣な目でストレアがシグレを見返す。

 

 

「…知ったような口を。お前が俺の何を知ったつもりだ」

「……わかんないよ。シグレは何も話してくれないから…なんにも分かんない」

 

 

でもね、とストレアは続ける。

 

 

「それでも…ずっと、傍にいて、ずっと見てたから。だから…分かることもあるんだよ」

「……表の面なぞ、いくらでも作れる。仮に分かっていたとしても、それが真実である保証は、どこにもない」

 

 

シグレは言いながら、フィリアに視線を向ける。

 

 

「お前なら、分かるだろう。俺が過去にした事を聞いて…それでも印象は同じだったか?」

「っ…」

 

 

シグレに問われ、フィリアは答えに詰まる。

それこそが何よりの答えだった。

そんなフィリアを見てから視線をストレアに戻し。

 

 

「…こういうことだ。お前が俺にどういう印象を持っているかは知らないが…俺を信じたところで、碌なことにはなるまい」

「……たとえそうだとしても。アタシはシグレを…信じるよ」

 

 

ストレアに対し突き放す物言いを続けるシグレだが、ストレアも怯まない。

 

 

「たとえ本当のシグレが残虐で極悪非道な悪党だったとしても、アタシはいいんだ」

 

 

そこまで言い、ストレアは少しだけ表情を崩し、笑みを浮かべる。

 

 

「だって…シグレは、何度だって助けてくれた。時には自分を犠牲にして、助けてくれた…これは、シグレがどれだけ否定しても、変わらないよ」

 

 

事実だもん、とストレアは笑う。

 

 

「…だから、アタシは信じてるんだ。シグレがどんな人であったとしても、誰かを思う、優しい心を持ってるって」

「……」

 

 

あまりに自信満々に言われ、虚を突かれたように言葉を失うシグレ。

 

 

「ストレアだけじゃないわよ。私もそう…あんたの過去の話を聞いて、確かに印象は変わったわ」

 

 

フィリアも怯まない。

 

 

「…でもね。このホロウ・エリアで…私は確かに、シグレに守られてたよ」

「……」

「ずっと…前に立って、戦ってくれたから、こうして今も一緒にいられる。自分がそんなにか弱いなんて思わないけど…それでも、ありがとう」

 

 

お礼を言いながらも、けど、と続ける。

 

 

「だけど、私も、ストレアも…守られるだけのか弱いお姫様じゃない。私達だって…シグレを、守りたい」

 

 

その視線は真剣にシグレを見据えてこそいるが、どこか儚さを感じさせる表情。

その表情は、今にも泣きそうであったが。

 

 

「…守りたいんだよ、シグレ…貴方を…!」

 

 

フィリアの必死の訴えに、シグレは何も返さない。

…返せない。

フィリアから視線を逸らし。

 

 

「………俺には、何も守れない。自分の親すら、守れなかった……その仇すら、討てなかった」

 

 

自分には何の力もない。

だから、自分の傍にいれば、いつかは傷つく時が来る。

だから、遠ざけたかったというのに。

 

 

「ちっ…」

 

 

何故、こうなってしまったのか。

いつから、こうなってしまったのか。

二年の時をかけた全ての結果が、今は恨めしい。

しかし。

 

 

「…どれだけ憂いでも、過去は変わらない…か」

 

 

シグレはゆっくり溜息を吐いた。

言いながら、シグレは二人に向き直り。

 

 

「だからといって…未来に希望を持てるほど。誰かを信じられるほど、俺は出来た人間じゃないが…な」

 

 

この先どう生きればいいかなど、分からない。

多数の死を目の当たりにしたせいか、己の死というものに対する恐怖も感じない。

だから、この世界で死のうと、どうでもよかった。

しかし、そんな自分を助けるなどという物好きが現れてしまったのなら。

 

 

「…いいだろう。なら俺は、お前達を…俺を仲間だと思う者全員を、この世界から脱出させる」

 

 

この理不尽な仮想世界から、本来生きるべき世界へ。

たとえ、自分がどうなろうと。


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