ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
シグレは言うが、ストレアとフィリアからは表情は窺えなかった。
どんな表情をしているのかは興味があったが。
「…シグレ、一応言うけど」
「何だ」
「シグレも脱出する『全員』の中に入ってるよね?」
ストレアが念を押すように言う。
それにシグレは少し考え。
「…俺はどうせ、この制限がある」
自らに表示された時間制限を指す。
時間制限は、無情にも止まることなく時間を刻んでいた。
「こいつが0になれば、少なくともこの世界の俺は消える。現実の方は…こんな表示が出るくらいだ。生存の期待は持てまい」
「っ……」
シグレの言葉に、ストレアもフィリアも返せない。
突きつけられたそれは、明らかな現実。
「…どれだけ望んでも、叶わない現実はある」
二人に背を向けたまま、シグレは宙を見上げ、呟くように続ける。
その視線の先には、何があるのだろうか。
「どれだけ想いが強かったとしても、抗えない現実。消えない後悔…俺はずっと、それに振り回されっぱなしだ」
おそらく、最期まで。
「…そして、挙句の果てには、俺を助けると言ったお前たちに同じ傷を負わせようとしている」
すまない、と自嘲しながら言う。
結局、守るべき存在を守ることすらできず、自分すらまともに守れず。
父親の言う強さを身につけることすらできず。
シグレは、そんな自らの弱さに自嘲する。
「っ…なら、諦めないで生きようとして!」
そんなシグレを叱咤するように、フィリアが言う。
「まだ間に合うよ……ううん、私達が間に合わせるから!」
「そうだよ。それにシグレを助けたいのは…アタシ達だけじゃない。その位はもう…分かってるでしょ?」
「……」
ストレアの問いかけに、シグレは何人かの顔が浮かぶ。
それは勿論、この仮想世界における、ではあるが。
「……容赦のない奴らだ。どいつもこいつも」
溜息を一つ吐きながら、シグレは二人に振り返る。
「…しかしそうしなければ、お前達を傷つけることになるのなら…やるしかない、か」
その表情は、いつもと変わらない、シグレのもの。
それでもどこか、憑き物が落ちたような。
そんな風に、二人の目には映っていた。
「……吹っ切れた?」
「………ふん」
笑みを浮かべて尋ねてくるストレアに、シグレは視線を逸らす形で答える。
絆された事に対する気恥ずかしさ、なのだろう。
それを察し。
「かわいい反応だね、シグレー。うりうり~」
「っ…」
頬を突いて揶揄うストレアに、シグレは言い返せない。
その空気を断ち切るように。
「…そんな事より、だ。この後はどうする」
シグレがそう、フィリアに問いかける。
そこには若干の逃げがあったが、それに言及することなく。
「あ、うん…さっき、あいつに聞いた話なんだけど…」
フィリアが、先の戦いから逃げる直前に、信頼はできない相手から聞いた情報を思い出す。
そしてそれを告げようとして。
「…シグレ?」
言葉を止め、シグレの名を呼ぶ。
というのも。
「っ…ぅ……」
「シグレ…しっかりして!」
苦しそうに頭を押さえながらふらつき、なんとか倒れずに耐えていたから。
ストレアもそんなシグレには気づいていて、なんとか倒れないように支えていた。
「これ、は…」
シグレは痛みに耐えながら、ふと思い出す。
その痛みは、この時間制限が始まった時と同じ。
あの時のものだったから。
「っ……」
シグレは再び襲われたそれに抗えず、再度気を失い倒れる。
「シグレ!?」
「しっかりしてよ、シグレ!」
フィリアが、ストレアが必死に名を呼び、シグレを揺するが反応はなく。
その代わりといわんばかりに。
『Expiration: 9day 23hour 59min 45sec.』
―使用期限:9日23時間59分45秒。
『Using rate of alternate/backup module reached 50%.』
―代替モジュールの使用率が50%に達しました。
『Status restriction is migrated to phase 2 (Player ID: Sigure)』
―プレイヤー:シグレのステータス制限をフェーズ2に移行します。
『Part of battle skill/ability is restricted.』
―戦闘における一部の能力/スキルが制限されます。
『Unrecoverable bad status is granted.』
―スキルによる治療不可能なバッドステータスが付与されます。
まるで、シグレが生を望むことを許さないかのように。
システムは淡々と、メッセージを表示するのだった。