ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
*** Side Sinon ***
76層から始まって、気が付けば今は95層。
私のプレイヤーとしてのレベルは131。
「っ次!」
私はこの層のフィールドで、狩りを続けていた。
一人ではなく、キリト、アスナも交えた三人。
「シノン…ちょっと飛ばしすぎだ。そんなんじゃ持たないぞ!」
キリトに注意されるが、私は耳を貸さない。
少しだけ、三人を見る。
息を切らしているように見える。
でも、それは私だって同じ。
だけど。
「このままじゃ、先輩が……!」
以前、ホロウ・エリアで聞いた事。
あの時聞いたことが事実なら、あと10日以内にSAOをクリアしなければ先輩は。
「っ…」
私は弓を構える。
狙う先は、遠くにいるゴブリンの弓使い。
まだ、相手は気づいてない。
「…今!」
矢を放つ。
私が放った矢はゴブリンの胸を打ち貫き、一撃で光の粒に変える。
「はぁ、はぁ……」
肩で息をする。
疲れが溜まっているのは、自分でも分かっている。
「シノのん、少し休んだほうがいいよ…ここのところ毎日じゃない。このままじゃクリアする前に貴女が…」
「っ…でも!もう時間がない…!」
そう、時間はもう10日程度。
10日しか、ない。
それが、先輩にとってのタイムリミット。
もし、この間にクリアをできなければ先輩は死んでしまうかもしれない。
そうなったら、私がここに来た意味がなくなってしまう。
「このままじゃ、先輩が…!」
今もきっと、先輩は戦い続けてる。
私はそんな先輩の支えになるためにここに来た。
なのに、そのたった一つの願いすら、叶えられなくなるかもしれない。
「…っ」
私は体に鞭打って、立ち上がる。
体は、少しだけだるい。
けれど、休んではいられない。
「シノン!」
キリトが呼んでくる。
言いたい事は分かってる。
だけど。
「……ここまでありがと。ここからは一人で行くから…」
もう、戻ってもいい。
実際のところ、こうして毎日狩りに出ているのは、私の我儘でしかない。
そんなことは分かっている。
でも。
「もっと、前へ…!」
早く、クリアしなくちゃ。
95層を含めれば、あと、6層。
10日以内に、クリアするなら、1日すら無駄にできない。
立ち上がり、歩き出す。
「っ…え……?」
地面は普通のはずだったのに、突然何かに足を取られたかのようによろけてしまい、そのままバランスを崩しそうになる。
けれど、突然の事に反応しきれず、私は地面に体を叩きつけてしまう。
倒れた、という事を自覚するのに、それほど時間はかからなかった。
「シノのん、大丈夫…!…!?」
土が冷たくて、少しだけ心地よい。
アスナが駆け寄ってきたのか声が近くなり、地面の心地よさを邪魔するかのように体を揺すられる。
それだけは分かったが、途中からアスナの言葉が聞こえなくなった。
ぼんやりする意識の中、私は先輩の事を思い出す。
…私は貴方に助けられてから、ずっと貴方を心の支えにして、こうして過ごせてる。
…だから、なんて言わないけれど、いつか貴方の支えになりたいと思っていた。
…けれど、いざその状況になってみれば、私には、何もできない。
…私なんかが貴方の助けになれる、なんて、烏滸がましかったかもしれない。
…自分の無力さが、不甲斐なさが、悔しい。
…泣きたくなるくらいに、悔しいけど、そんな暇は、ないから。
…貴方を助けるために、頑張るから。
…だから、ほんの少しだけ、貴方と一緒にいられる夢を見ることを、許してください。
*** Side Sinon End ***