ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~   作:アルタナ

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第64話:焦りと贖罪 / Sinon

*** Side Sinon ***

 

 

 

76層から始まって、気が付けば今は95層。

私のプレイヤーとしてのレベルは131。

 

 

「っ次!」

 

 

私はこの層のフィールドで、狩りを続けていた。

一人ではなく、キリト、アスナも交えた三人。

 

 

「シノン…ちょっと飛ばしすぎだ。そんなんじゃ持たないぞ!」

 

 

キリトに注意されるが、私は耳を貸さない。

少しだけ、三人を見る。

息を切らしているように見える。

でも、それは私だって同じ。

だけど。

 

 

「このままじゃ、先輩が……!」

 

 

以前、ホロウ・エリアで聞いた事。

あの時聞いたことが事実なら、あと10日以内にSAOをクリアしなければ先輩は。

 

 

「っ…」

 

 

私は弓を構える。

狙う先は、遠くにいるゴブリンの弓使い。

まだ、相手は気づいてない。

 

 

「…今!」

 

 

矢を放つ。

私が放った矢はゴブリンの胸を打ち貫き、一撃で光の粒に変える。

 

 

「はぁ、はぁ……」

 

 

肩で息をする。

疲れが溜まっているのは、自分でも分かっている。

 

 

「シノのん、少し休んだほうがいいよ…ここのところ毎日じゃない。このままじゃクリアする前に貴女が…」

「っ…でも!もう時間がない…!」

 

 

そう、時間はもう10日程度。

10日しか、ない。

それが、先輩にとってのタイムリミット。

もし、この間にクリアをできなければ先輩は死んでしまうかもしれない。

そうなったら、私がここに来た意味がなくなってしまう。

 

 

「このままじゃ、先輩が…!」

 

 

今もきっと、先輩は戦い続けてる。

私はそんな先輩の支えになるためにここに来た。

なのに、そのたった一つの願いすら、叶えられなくなるかもしれない。

 

 

「…っ」

 

 

私は体に鞭打って、立ち上がる。

体は、少しだけだるい。

けれど、休んではいられない。

 

 

「シノン!」

 

 

キリトが呼んでくる。

言いたい事は分かってる。

だけど。

 

 

「……ここまでありがと。ここからは一人で行くから…」

 

 

もう、戻ってもいい。

実際のところ、こうして毎日狩りに出ているのは、私の我儘でしかない。

そんなことは分かっている。

でも。

 

 

「もっと、前へ…!」

 

 

早く、クリアしなくちゃ。

95層を含めれば、あと、6層。

10日以内に、クリアするなら、1日すら無駄にできない。

立ち上がり、歩き出す。

 

 

「っ…え……?」

 

 

地面は普通のはずだったのに、突然何かに足を取られたかのようによろけてしまい、そのままバランスを崩しそうになる。

けれど、突然の事に反応しきれず、私は地面に体を叩きつけてしまう。

倒れた、という事を自覚するのに、それほど時間はかからなかった。

 

 

「シノのん、大丈夫…!…!?」

 

 

土が冷たくて、少しだけ心地よい。

アスナが駆け寄ってきたのか声が近くなり、地面の心地よさを邪魔するかのように体を揺すられる。

それだけは分かったが、途中からアスナの言葉が聞こえなくなった。

ぼんやりする意識の中、私は先輩の事を思い出す。

 

 

…私は貴方に助けられてから、ずっと貴方を心の支えにして、こうして過ごせてる。

 

…だから、なんて言わないけれど、いつか貴方の支えになりたいと思っていた。

 

…けれど、いざその状況になってみれば、私には、何もできない。

 

…私なんかが貴方の助けになれる、なんて、烏滸がましかったかもしれない。

 

…自分の無力さが、不甲斐なさが、悔しい。

 

…泣きたくなるくらいに、悔しいけど、そんな暇は、ないから。

 

…貴方を助けるために、頑張るから。

 

 

 

…だから、ほんの少しだけ、貴方と一緒にいられる夢を見ることを、許してください。

 

 

 

*** Side Sinon End ***


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