ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~   作:アルタナ

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第14話:幻影の死神

そんなこんなで、敵が少ないところでお弁当(サチ作)を広げる。

そして、ケイタ、テツオ、ササマル、ダッカーが待ってました、と言わんばかりに。

 

 

「「「「いただきまーす!!」」」」

 

 

言いながら、おにぎりを手にとって頬張っていた。

その様子にサチは苦笑していた。

シグレもその様子に軽く苦笑。

 

 

「シグレも、どうぞ」

「…頂こう」

 

 

シグレはサチにおにぎりを手渡され、とりあえず口に入れる。

何の変哲もなさそうな、塩むすび。

この世界の料理は楽しめるものではないはずなのだが、どこか暖かく感じた。

…それを言葉にはしなかったが。

 

 

「ね…シグレ、ごめんね?」

「……?」

 

 

突然謝られ、シグレはサチに視線を向ける。

視線を向けると、自分で作ったおむすびに視線を落としながら、どこか悔いるような表情だった。

 

 

「私が臆病なせいで、テツオとシグレに前衛任せっぱなしで…稽古の事になっても、やっぱり怖くて…すぐに頷けなくて…駄目だね、私」

 

 

それは誰に対する恨みでもなく、自分自身の弱さに対する悔しさ。

そしてそれが原因で人に迷惑をかけてしまっている、という事実。

それが、サチの心を苛んでいた。

シグレはそんなサチを見て、一つ溜息。

 

 

「……当たり前だ」

「え?」

 

 

シグレが発した言葉が意外だったのか、サチは顔を上げて、シグレを見る。

シグレはサチを見るでもなく、どこか空を見ているように見える。

 

 

「……死にたくないから怖い。怖いから戦いは避けたい…自然なことだろう」

「でも、そのせいでみんなに迷惑かけちゃって…」

 

 

見るからに落ち込んでいるのは、さすがにシグレでも分かる。

けれどこういったときにどうすればいいかが分かるほど人付き合いに慣れているわけではない。

そんなシグレが出来ることといえば。

 

 

「……シグレ?」

 

 

頭を撫でることくらいしか思いつかなかった。

サチは突然の事にシグレの名を呼ぶ。

 

 

「…その怖さは、忘れなくていい。その上で、自分が迷惑をかけていると思うなら…何ができるか、考えてみればいい」

「私が…何をできるか…」

「……まぁ、ゆっくり考えればいい」

 

 

それがきっと、強さに繋がる。

そう繋げながら、シグレはサチから手を離す。

 

 

「あ…」

 

 

サチは少しだけ名残惜しそうにシグレを見る。

しかしシグレはそんなサチの様子には気づかず、皆に視線を向け直していた。

とはいえ、会話に加わるでもなく、一人、塩むすびを頬張るシグレ。

サチはそんなシグレを、なんとなく無意識に眺めていた。

すると。

 

 

「そういえばシグレは、あの噂は知ってるか?」

「…噂?」

 

 

徐にテツオが話題を振る。

とはいえ、話の内容がわからなければ同意のしようもないので先を促すシグレ。

 

 

「1層から6層まで攻略組より早くボスを撃破。その後も25層に至るまでの半分以上の迷宮区のボスを単独撃破した謎の攻略者」

「誰も姿を見ていないが、確実に敵を葬る様子から、いつからか『幻影の死神』って呼ばれるようになったらしい」

「『幻影の死神』…ね」

 

 

ササマル、ダッカーと続く。

ボス攻略というとシグレには心当たりがありすぎたが、敢えて口には出さない。

 

 

「で、一番そいつに憧れてるのが、リーダーってわけで」

「…な、なんだよ悪いか!」

 

 

揶揄う三人に、不満げに反論するリーダーのケイタ。

談笑する4人をよそに、シグレはサチに尋ねる。

 

 

「…その『幻影の死神』とかいうのは有名なのか?」

「え?うん。町で情報屋さんが配布してる情報に書かれてたから、結構知れ渡ってるんじゃないかな」

「そうか」

 

 

いつの間にかついていた二つ名に、シグレは少しばかり過去を思い出していた。

 

 

…それは、シグレが『孤独』になったきっかけであり、全ての始まりの話。


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