ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~   作:アルタナ

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第66話:今の私に、できること / Asuna

*** Side Asuna ***

 

 

 

サチさんに水を取り替えに行ってもらって、今この部屋には私と、眠っているシノのんだけ。

熱のせいなのだろう、さっきから魘されてる。

 

 

「……」

 

 

いくら疲れているとはいっても、SAOという仮想世界。

ここでこんなに魘されるほどおかしくなることというのは本当にあるのだろうか。

…そうじゃない。

わかってる。

たとえ仮想世界でも、心は本物だから。

 

 

「…せん、ぱ…い……」

 

 

ここに来てから。

それとも、シグレ君と再会してから。

どこからなのかは、私には分からないけど、きっと、焦ってた。

シグレ君を助けるために強くなりたくて。

でも、思ったように強くなれなくて。

 

 

「……ごめ、なさい…っ」

 

 

うわ言のように、シグレ君に対して謝り続けている。

きっと彼に差し出そうとしている、縋ろうとしているその手を、握ってあげることしか、私にはできなかった。

 

 

「…私も、なんだよ。シノのん…」

 

 

私だって、シグレ君がいなかったら今頃どうなってたか、分からない。

第1層で絶望して、自害してたかもしれない。

そうでなくてもこうして、攻略組にすらいなかったかもしれない。

 

 

「私も、シグレ君に助けられて、何も返せてない…」

 

 

それどころか、彼の思いも知らず、自分の剣で貫いてしまった。

あの時の感触が、未だに手に残ってる。

あの時の事を謝ることも、出来てない。

 

 

「……一人で頑張りすぎないで」

 

 

手を握って、起こさないように小声で、けれど訴えるように。

眠っているからきっと聞こえていないとは思うけど。

どうか、無茶をしないで。

 

 

「シグレ君…」

 

 

もう、全部貴方のせいな気がしてるよ。

貴方がもう少しだけ、私の…私達の事を見てくれていたら、こんなに辛い思いはしなかったんじゃないかって。

でも、貴方のことが全然分からないわけじゃない…と思う。

何故なら…第1層で会った時、貴方は私を助けてくれた。

フィールドでモンスターに襲われた時も、デスゲームの告知がされた後も。

きっと、貴方にとっては何気ない事だったのかもしれない。

 

 

「…」

 

 

シノのんも、きっと私と同じなのだろう。

貴方にとっての何気ない事で救われて。

でも、そのまま…助けられたままで終わりというのが嫌で。

貴方を助けたいと思っても、助けられないことが歯痒い。

貴方に何も返せないことが、悔しい。

だから、強くなりたいと思って、攻略に力を入れて、今でこそ最前線で戦えるようになったけど、それでも届かない。

 

 

「…どうか、無事で……戻ってきて」

 

 

今は、ただそれだけを想う。

どうか、死なないで。

時間制限の事はキリト君やシノのん経由で聞いてる。

よくない事が起きてることも、分かってる。

本当なら、貴方のもとに駆け付けて、助けたい。

だけど、今は。

 

 

「…私は、私にできることを」

 

 

アインクラッドの攻略を、皆と一緒に、確実に。

それが、最善だと思うから。

 

 

…貴方は、こんなところで死なないって、信じてるから。

 

 

「…だから」

 

 

一緒にちゃんと、帰ったら……

 

 

その先は、今は考えないつもりでいるけれど。

…まずは、ちゃんと友達から…始められるかな。

 

 

 

*** Side Asuna End ***


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