ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
*** Side Sinon ***
……ぼんやりと、目を覚ます。
「……」
右手が温かい。
何だろうと思い、見てみるとアスナに握られていた。
当のアスナは眠っている。
「…」
見回せば、窓から見える景色は暗い。
夜になっていたのだと察するのに時間はかからなかった。
何があったのかを考える。
確か私はフィールドで、何かに足を掬われて、地面に伏して。
…違う。
倒れたんだ…私。
「っ…」
あの人を助ける、なんて意気込んで、周りの制止も振り切って。
その結果はどうだ。
私の事を気遣ってくれた人に迷惑をかけただけで、結局何もできてない。
「……」
悔しさに、泣きそうになる。
誰かに、所詮お前の強さはその程度、と言われているようで。
お前に助けられるわけがない、と言われているようで。
…今は、貴方の隣に並べなくてもいいから。
…いつか、いつかは必ず、貴方と共に戦えるくらいに強くなるから。
…だから、どうか。
「……先輩…!」
…どうか、死なないで。
…無事に、向こうに戻って、向こうでちゃんと、話をしたい。
…話したいことは、沢山ある。
…話さなければならないことも、沢山、ある。
「…まだ、私……貴方に、お礼の一つも言えてない…!」
貴方と、まだちゃんと何も話せていない。
お礼の一つもできていない。
助けられた時からずっと告げたいと、秘め続けてきた、たった一つの言葉すら、届けられていない。
…私は、貴方のおかげでこうして生きてこられたと、思っている。
…ずっと貴方が私にとっての心の支えで。
…いつからか、私の心の中には、貴方という存在が大半を占めていた。
…貴方が人殺しとなる場面を見ていたけれど。
…たとえ、貴方が犯罪者として誰からも蔑まれようとも。
…少なくとも、私は、私だけは貴方の味方であり続ける。
…だから。
「…どうか……!」
負けないで。
私のために、なんて烏滸がましい事は言わないから。
せめて、先輩自身の為に、生きて欲しい。
「……アスナ」
ふと、ベッドに突っ伏すように眠る栗色の髪の女性が目に入る。
それがアスナだと気づくのに時間はかからなかった。
そっと、髪に触れる。
羨ましいくらいにふわふわだった。
「駄目ね…私」
フィールドではあれだけ心配をかけて、結局ここまで迷惑をかけてしまっている。
あの時、ちゃんと話を聞いて無理をしていなければ、こんな事にはならなかったはずなのに。
「…ごめんね。ありがとう」
「ん…ぅ……」
そっとアスナの髪を撫でると、寝言だろうか声を漏らす。
その様子が少し可愛く見え、私は笑みが零れた。
女の私ですら、そんな風に思えるのだ。
男性なら、こんなアスナを見たら、ころっと落ちてしまうだろう。
…ひょっとしたら、先輩も。
だけど。
「…でも、先輩の事だけは、絶対に負けないから」
アスナの想いも分かっているからこその、宣戦布告。
これだけは、他の誰にも、譲れない。
たとえSAOが終わっても、私の、女としての戦いは、終わらない。
*** Side Sinon End ***