ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~   作:アルタナ

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第68話:余命幾許もなくとも

ホロウ・エリアにて。

 

 

「っ…ぅ……」

 

 

数分とも、数時間ともとれる時間の後、シグレが呻き声と共に目を覚ます。

そのまま立ち上がり、辺りを見回すシグレ。

ストレアとフィリアはそんなシグレをどこか不安げに見る。

不安げなのは言うまでもなく、システムメッセージ。

治療不可なバッドステータスがどんなものなのかが不安だった。

 

 

「……?」

 

 

一方のシグレも異変に気付いたのか、自分の手を見たり、何かを確認しているようだった。

 

 

「…大丈夫?」

「?…あぁ」

 

 

とはいえ、事情を知らないシグレはストレアに聞かれても何も言わない。

それが余計に二人の不安を煽っていることも、シグレは気づいていなかった。

 

 

「…行くぞ。時間はもう…そう多くない」

 

 

シグレは自身に残された時間を確認し、先に進むように言う。

そこで、シグレは思い出したように。

 

 

「…そういえば、お前はあの時、奴と話を…」

 

 

していたな、と言いかけた所で、シグレは不意に言葉を止める。

その刹那、シグレは口元に手をやり、激しく咳き込む。

 

 

「が、は……」

 

 

ただの咳だけなら、まだよかったといえるのだろうが。

必死に耐えながら何度も咳をするシグレ。

やがて、意識が朦朧とし始めたのか、立ち上がったシグレの身体は再度膝をついてしまう。

 

 

「シグレ!」

 

 

ストレアが駆け寄り、シグレの背をさする。

フィリアは突然のそれに、動けずに立ったまま不安げにその様子を見るだけで精一杯だった。

やがて、少し落ち着いたのか。

 

 

「は…っ……」

 

 

目を閉じ、深呼吸をして息を整えるシグレ。

そんなシグレの額には汗が浮かんでおり、それがいかに辛い咳であったかを思わせる。

 

 

「大丈夫…シグレ?」

「…問題ない」

 

 

フィリアも膝をつき、シグレに視線を合わせて尋ねる。

その答えに、とてもそうは見えない、と言いかけて、フィリアは言葉を止める。

シグレは弱音を吐くような人じゃない。

そう思っていたから、問い詰めても意味がない。

そう察したから。

 

 

「…そう、よかった」

 

 

そう返すだけに留めた。

 

 

「でも…さっき、システムメッセージが出たの。解除不可能なバッドステータスが付加される…って」

「……そうか」

 

 

代わりにフィリアは事実を伝え、シグレもそれを受け入れる。

やがてシグレは自身のステータスを確認する。

すると、状態異常に加え、スキルが一つ追加されていた。

 

 

 

『衰弱 (System)』

・全ステータス20%DOWN

・ソードスキル威力50%DOWN

・その他、発熱、咳等の症状を発することがある

 

 

『最後の灯』

・スキルを発動すると、1時間のみ『衰弱 (System)』を解除する (重ね掛け不可)。

・スキル発動時、モジュールの使用可能時間が12時間減少する。これによって残り時間が0になる場合、スキルの効果が消えた時点でアバターが消滅する。

 

 

 

その情報を、ストレアとフィリアにも展開するシグレ。

 

 

「…ということだそうだ」

 

 

溜息交じりなシグレ。

この状況でも平静さを崩さないのはさすがというべきか、何というべきか、と思う二人だったが。

 

 

「…シグレ。このスキルは…絶対に使わないで」

 

 

フィリアが真剣にそう訴える。

その思いはストレアも同じだったようで軽く頷き、同じく真剣にシグレを見ていた。

 

 

「……理由は何だ」

「シグレの命を削るからだよ…!」

 

 

フィリアは最悪の結末、すなわちシグレの消滅を想像してか、少し泣きそうな声で訴える。

その様子に、シグレはまた一つ溜息を吐きながら、フィリアに近づき、彼女の頭を撫でる。

それは少しでも落ち着かせよう、という意図だろうか。

 

 

「確約はできないな。必要とあれば…迷わず使う」

「…何で」

 

 

フィリアの問いに、シグレはいつもの口調で。

 

 

「……まだ、やる事があるからだ」

 

 

全員を、この世界から脱出させる。

シグレが自らに立てた誓い。

 

 

「…話が逸れたな。この先どうするか…奴から話は聞いたのだろう」

 

 

余命幾許もない身であっても。

否、だからこそ、貫き通す覚悟を決めたシグレ。

そんなシグレを、相変わらずだと思うストレアとフィリア。

しかしその一方で、彼女たちもまた、シグレを守ってみせると、秘かに誓いを立てるのだった。


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