ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~   作:アルタナ

186 / 251
第72話:諸刃の剣

あれから、戦い、先に進み、どれだけ進んだだろうか。

 

 

「……」

 

 

門を開けば大量のモンスター。

進んだ先に転移門。

それが延々と繰り返される。

皆が皆、息を切らしながら進んでいく。

 

 

「…平気か?」

 

 

刀を持ち、魔法陣の奥に警戒をしたままシグレが尋ねる。

 

 

「…平気」

「私も。こんなところでへばってられないでしょ…」

 

 

ストレアもフィリアも肩で息をしながら返す。

多少の疲れこそ見せているが、彼女たちとてここまで攻略をしてきた実力者であることに変わりはない。

シグレもそれを分かっているからこそ、それ以上の追及はしない。

 

 

「シグレは…平気?」

「…あぁ」

 

 

ストレアの問いに、シグレは短く返す。

いつも通りといえばいつも通り。

しかし。

 

 

 

『Expiration: 8day 22hour 34min 11sec.』

―使用期限:8日22時間34分11秒。

 

 

 

表示されたシステムのメッセージが現実を突きつける。

戦い続けて進み続け、もう1日経っている。

あと、9日を切っている。

 

 

「…行こう」

 

 

フィリアが歩き出す。

ストレアも続く。

シグレはそんな彼女らに背を押されるように歩き出す。

 

 

「……」

 

 

誰が見ても二人が疲労困憊なのは見ればわかるだろう。

その状態で、決して弱くはないモンスターの群れの中に飛び込むことがいかに危険かも。

誰でも分かること。

まして、こと戦いのことに関して、シグレが気付かないはずもなく。

 

 

「…」

 

 

シグレは魔法陣の展開と共に。

 

 

「……休んでいろ」

 

 

先陣を切って、シグレはその群れの中に飛び込む。

次の瞬間、シグレの体がライトエフェクトに包まれる。

 

 

「っシグレ!」

「駄目!」

 

 

ストレアとフィリアの制止を聞かず、シグレはスキルを発動していた。

 

 

『Expiration: 8day 10hour 25min 33sec.』

―使用期限:8日10時間25分33秒。

 

『Skill Effect Limit: 59min 59sec.』

―スキル効果時間:59分59秒。

 

 

自らの12時間と引き換えに、シグレはモンスターの群れの中に飛び込んでいく。

その動きは、先程までの制限された動きとは見違えるほどだった。

その立ち回りは見慣れていたはずの二人だったが、戦いの疲労もあって、今のシグレに合わせる余裕がなかった。

 

 

「……」

 

 

シグレがその一帯のモンスターの群れを一掃するのに、それほど時間はかからなかった。

けれど、シグレは二人のもとに戻るでもなく、奥へと駆けていく。

そんなシグレに続くかのように、ストレアとフィリアも駆け出した。

 

 

 

そうして、どの位三人は駆けたか。

シグレは休むことなく駆け抜け、やがて次の層に続く転移石を発見し。

 

 

「…ここで最後か」

 

 

『Expiration: 8day 9hour 31min 11sec.』

―使用期限:8日9時間31分11秒。

 

『Skill Effect Limit:5min 37sec.』

―スキル効果時間:5分37秒。

 

 

どうにか間に合った、といった様子でシグレが再度駆け出す。

とはいえ、あまりに短い時間。

それでもシグレは止まらなかった。

 

 

 

 

 

…それから数分。

 

 

「……」

 

 

最後のモンスターを薙ぎ、辺りは静かに収まる。

 

 

『Expiration: 8day 9hour 25min 48sec.』

―使用期限:8日9時間25分48秒。

 

『Skill Effect Limit:14sec.』

―スキル効果時間:14秒。

 

 

僅かな残り時間の中で息を吐きながら刀を納めるシグレ。

あとは転移門に入るのみ。

 

 

「……平気か」

「…平気」

「というかシグレ…速すぎ」

 

 

シグレの心配にストレアとフィリアは返す。

それを見て。

 

 

「…いずれまた敵は出るだろう。その前に先に」

 

 

進む、と言いかけたところで。

 

 

『Skill Effect Limit:0sec.』

―スキル効果時間:0秒。

 

 

効果時間が終了し、シグレを包んでいたライトエフェクトが消える。

それとほぼ同時に。

 

 

「っ!?」

 

 

シグレの体が突然その場に崩れ落ちる。

その様子は、さながら糸を切られた操り人形のようで、抗いきれずに倒れこむ。

 

 

「っ…が、は…!」

 

 

どうにか立ち上がろうとしたシグレが突然咳き込む。

苦しいのか胸元を握り締めるように押さえながら、それでもなかなか治まらず、苦しげに呻く。

 

 

「っ…シグレ!」

 

 

ストレアが駆け寄り、背中を摩る。

苦しくも徐々に改善していき、咳が治まっていく。

フィリアが気遣うようにシグレに手を貸す。

 

 

「……はぁ…」

 

 

大きく深呼吸をするシグレ。

やがて落ち着いたのか、ややふらつきながら立ち上がり。

 

 

「…もういい。行くぞ」

 

 

どこか急ぐように先を促すシグレ。

そんな彼に、二人も続いたのだった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。