ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
** Side Sachi **
「シグレ…?」
突然黙り込んでしまったシグレに、声をかける。
彼は食べかけのおにぎりを手に持ったまま、地面の方をに視線を向けていた。
どうしたのだろう、と私はシグレの表情を窺う。
「…っ」
声をかけようとしたが、思わず言葉を失った。
彼はぼんやり地面を見ているのかと思ったが、そうではなかった。
彼は今はきっと…何も見ていない。
このゲームを始める前の私ではきっと気づかなかったけれど、今は気づいた。
気づけてしまった。
…彼の眼が、全てに絶望した時のそれである事を。
私には、皆がいてくれた。
だからこうして立ち直れて、怖さを抱えながらではあるがこうして過ごせている。
けれど、シグレは…?
たまたま知り合っただけと言われれば、その通りだ。
いくら命の恩人で、同じにギルドの仲間だとしても、きっと彼の瞳が映し出す、その奥を知ることはきっと出来ない。
彼のことを知らない私がどんな言葉をかけても、きっと…届かない。
シグレは私は皆の事を助けてくれたり、戦い方を教えてくれたり、貰ってばかり。
なのに、少なくとも私は…何の助けにもなれていない。
それが歯痒く感じた。
「…シグレ、大丈夫…ひょっとして、疲れてる?」
シグレを気遣って声をかけると、シグレはハッとした様子で顔を上げ。
「いや、問題ない」
さっきまでと全く同じ口調でそう返す。
そう返されても、さっきのシグレの事が心配で頭から離れない。
「おーい、そろそろまた狩りにいかないかー?」
ケイタに声を掛けられ、シグレは立ち上がる。
「…行くか?」
左手で腰に携えた剣の鞘を持ちながら立ち上がるシグレ。
そんな彼に、私は少しだけ笑みを浮かべ。
「そろそろ、戻りたいかな…ちょっと疲れちゃった」
そうとだけ、返した。
そんな私の言葉にシグレはそうか、と一言だけ。
皆は、サチはしょうがないなー、と、いつもの皆の調子だった。
私の心配が杞憂なら、それに越したことはないのだけど。
すごく強いと思っていたシグレに垣間見れた弱さに、少しだけ親近感を感じたことは秘密だ。
そんなこんなで、日が傾きかける頃。
戻るのが早いとも思っていたが、転移結晶を使うほどの距離でもなかったので、歩いて戻ろうということになった。
「ね。シグレは私達と会う前はどんな風に過ごしてたの?」
「…」
私の問いかけに、シグレは言葉に迷っていた。
無理もないのかもしれない。
外に出るときは、一緒だったとはいえシグレを除く5人とシグレ、という感じだった。
ところが帰りは私からシグレに積極的に話しかけている。
…客観的に考えると恥ずかしい。
けれどそれはシグレも同じなのか、黙り込んでしまっていた。
「じゃ、じゃあ…シグレってどんな食べ物が好き、なのかな…?」
いくら会話のきっかけが欲しいからって、この質問はどうなのだろう、とは思う。
けれど、彼はそれには答えず。
「…話しかけるのは結構だが、変に気を使われているらしい」
とだけ、私に返してくれた。
併せてシグレが指差すほうを見れば、こちらを面白そうに見てくるギルドの皆。
「そ、そんなんじゃないからね!?」
「…まぁまぁ、ごゆっくり~」
「ちなみに、そんなって?」
「っ~~!!」
からかってくる皆に恥ずかしさを隠さずにグーパンチ。
HPは減らないだろうけど。
「…仲がいいな」
その様子をばっちり見られ、そんな風に言われる。
そんな風に言われ、恥ずかしさをそのままにシグレにも反論しようと彼の方を振り返るが、思わず動きを止める。
…彼が、笑っていた。
……屈託のない笑顔というわけではないが、優しい笑み。
………普段は無表情ばかりの彼のそんな表情に、私は少しだけ、胸の高鳴りを覚えた。
生まれて初めての感覚に、顔まで熱くなるのを感じていた。
「…さて、この後はどうするんだ、リーダー?」
「あぁ、この後は夕食を摂って、明日に備えて休もう。皆もそれでいいか?」
「「「了解!」」」
「うん…」
シグレの問いかけにケイタが提案し、私を含めた皆が同意する。
「あ…」
皆が揃って宿に向かって歩き出すころには、シグレはいつもの表情に戻っていた。
** Side Sachi End **