ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
モンスターが消え、シグレが消え、静寂が戻った空間。
そんな中で。
「シグレ…?」
虚空を、シグレが飛び込んだ方を見上げながら、茫然とストレアは呟くように、問いかけるように彼の名を呼ぶ。
けれど、答えは返ってこない。
呆れるような溜息すらも、何も。
「っ…」
自らの短剣を握りしめ、悔しそうに目を伏せるフィリア。
光に包まれた瞬間に起こった出来事を見ていたわけではない。
直視がまともにできない程の光の中での出来事であったから、見えなかった、という方が正しい。
しかしそれでも。
「…馬鹿……!」
何が起こったのかを理解するのは容易だった。
それは、これまで行動を共にしていたから。
シグレという人物があの状況でどう動くかが分かる程度には、知っていたから。
だからこそ、察してしまった。
「……」
一方のストレアはといえば、両手剣を持ったその手をだらんと垂らし、力なく宙を見上げている。
そこに広がるのは、静寂を取り戻した空間が広がるのみ。
「シグレ……どこ、いったの…?」
震えるような声を出すストレア。
その問いに答える声は、彼女が望む答えを持つ者は、その場にはいない。
否、どこにもいない。
「…シグレ…」
ふらふらと、歩き出す。
シグレが飛び込んでいった方向へ。
当然、その先に足場があるわけがなく。
「っストレア!」
そのまま進めば、転落する。
そう感じたフィリアが慌ててストレアを後ろから抱きしめ、止めさせる。
「…離して、フィリア。シグレを…迎えに行かなくちゃ…」
「そっちに行っちゃダメだよストレア…分かってるんでしょ?シグレは…」
「…嫌、やめてよフィリア!聞きたくない!」
フィリアが告げようとしたことを、大声で遮るストレア。
ストレア自身、頭では理解していた。
何が起こったのかを。
まして、AIという、演算能力に長けた存在なら猶更である。
けれど、それを受け入れることができるかは全くの別問題。
「……嫌だよ、シグレ…戻って来てよ…!」
やがて、肩を震わせるストレアは、脚の力が入らないのか、その場にへたり込む。
フィリアもつられながらも、何とかストレアを支えながら一緒にその場にしゃがむ。
「…ねぇ、アタシ…何か、シグレを怒らせるようなこと…しちゃったかな?…あはは…ダメだ、心当たりありすぎるよ…」
声を震わせ、自嘲するようなストレアの言葉に、フィリアはただ抱きしめることしかできない。
彼女が、どれだけシグレを想っていたのかを、間近で見ていたから。
何を言っても、上っ面の慰めになってしまうと思ったから。
だから、少しでも落ち着けるように、抱きしめることしかできない。
「ごめんね、いっぱい、いっぱい…謝るから…許さなくていいからぁ……!」
ストレアの言う、怒らせるようなこと、というのはおそらく彼女にしか分からない。
その罪を許すことができる者がいないとしても。
「…シグレ……お願いだから、戻ってきてよ…シグレ……!!」
涙を隠さぬ声で、只管に名を呼び続ける。
それが決して届かないとわかっていても。
ストレアの涙を止めることは、誰にも出来なかった。
「ああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
ストレアの悲痛な叫びは、仮想世界の虚空へと吸い込まれるように、消えていく。