ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
それから、どれほど時間が経ったか。
涙を流すストレアを、フィリアはずっと、抱きしめ続けていた。
ストレアを安心させるため、という大義名分こそあるが、それはフィリア自身のためでもあった。
今、誰の温もりに触れることも出来なければ、どうにかなってしまいそうで。
「っ…!」
ストレアに縋ることで、なんとか自分を保っていた、ともいえる。
フィリア自身、それは分かっていた。
けれど今は、何かに縋りたかった。
「う、うぅ…っ!」
なおも涙に震えるストレアを、ただ抱きしめる。
「……本当に、馬鹿…!」
守るって、言ったくせに。
…私達の『心』を、こんなにズタズタにして。
生きて帰るって、言ったくせに。
…簡単に自分の命を捨てて。
「こんなことが…アンタがやりたかった『守る』ってことなの…?だとしたら最低だよ…!」
結果的に、自分達の命が救われたのだとしても、あんまりだ。
…なんて、悪態をつくことも、出来ないけど。
「う、ぅ…!」
フィリアも堪え切れず、声を涙で震わせる。
本当なら、ストレアのように、全てを吐き出したい。
けれど、フィリアの中に残った理性が、それを限界まで押し留める。
それでも、目の前の現実に、抑えきれないものが溢れ出してきていた。
「何でよ、シグレ…!」
何で、簡単に命を捨てたの。
何で、私たちを守ってくれたの。
何で、私たちの気持ちを、分かってくれなかったの。
何で、何で、なんで。
答えの帰ってこない疑問で、フィリアの頭の中が満たされる。
「…」
一緒に、この世界を脱出出来たら。
現実世界で出会い、また仲良く出来たら。
そんな淡い期待も、フィリアの中ではこの世界で生きる希望の一つだった。
けれど、その一つを失った今、フィリア自身も僅かに揺らいでいた。
それでも。
「…ねぇ、フィリア」
「何…ストレア?」
少しばかり落ち着いたのか、ストレアがフィリアの名を呼ぶ。
いつの間にか、ストレアの震えは止まっていた。
「アタシ……これから、どうしたらいいんだろ」
「…ストレア」
「シグレの傍に、ずっと一緒にいたかった。この世界が終わるまでの間だけでも、ただシグレの傍で、助けられれば良かった」
なのに、もう、シグレはいない。
「…でも、もうシグレはいない…これじゃ、生きてる理由がないよ……」
力ない言葉に込められた、絶望の色。
けれど、それでも。
「…それでも、最後まで生きなきゃ駄目だよ、ストレア」
「え…?」
フィリアは諭すように言う。
「……私だって、ストレアの辛さの全部とは言わないけど、半分くらいは分かってるつもり。でも…私達は生きなきゃ」
「なんで…」
シグレはもう、いないのに。
何を希望に、この先生きればいいのか。
そんな疑問に答えるように。
「…だって、シグレがそう望んで、命懸けで守ってくれたから」
ここで命を捨てたら、それこそシグレに何言われるか分からないよ。
そう、フィリアは辛さを混ぜ込んだ笑みを浮かべる。
ストレアはそんなフィリアの表情の意味を理解できたからこそ。
「だから…一緒に頑張ろ?」
「…」
フィリアの言葉に、ストレアはすぐには答えない。
そう簡単に割り切れるものではない事は、フィリアにも分かっている。
実際、フィリア自身も割り切ったわけではない。
けれど、それでも前を向く事を、シグレは望んでいるだろうと思っていたから。
「…うん」
そして、ストレアも、前を向く強さを持っていると、信じていたから。
ストレアの返事は、たった一言の短い返事。
けれど、そこには辛さこそ残っているが、前を見ようとする強さを含んでいるように感じられた。