ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~   作:アルタナ

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第80話:最後の一歩

そこには、何もない。

四方、八方、どこを見ても、暗闇。

足元にも、上空にも明かりの一つもない。

自分の身体すら、見えないほどの、闇。

 

 

「……」

 

 

目を、閉じているのか、開いているのか。

自分が起きているのか、眠っているのか。

何も、分からない。

先ほどまで手に持っていた武器の感触すら、ない。

手に何か触れているのか、そうでないのかすら分からない。

自分の足が地についているのか、それすら分からないほどの浮遊感。

ただ、自分の思考のみが、自分の存在を認識させる。

 

 

「……そうか」

 

 

回り始めた思考は、過去を呼び覚ます。

『俺』を仲間だと言う、あいつらを守りたかった。

相打ちでも良かった。

今となっては、それが叶ったかは、分からないが。

 

 

「……」

 

 

結局、何も、守れなかった。

何も知らなかった頃、自分を守ってくれた父のように、なりたいと思った。

父を喪って、母を喪って。

孤独になったからこそ、せめて身の回りの大切なものくらいは。

しかし、そう上手くはいかなかった。

 

 

「…」

 

 

ここが何なのか、分からない。

死後の世界なのか。

だとすれば、結局。

 

 

「…何だったんだろうな」

 

 

何かを成すこともなく。

ただ、命を奪い続けることしかせず。

本当に守りたかったものは、何も守れなかった。

 

 

「…」

 

 

本当は、分かっていた。

あの世界で、人と関わって、本当に守られていたのは、自分の方だった。

何かを返す、力すらなかった。

そんな事は、分かっていたはずだった。

自分に出来るのは、奪う事だけだと。

 

 

…こんなことなら、拒絶するべきだった。

 

…何もかもを。

 

…自分を仲間だと思う奴らを皆、初めから拒絶すべきだった。

 

…そうすれば、ここまで思うこともなかったはずなのに。

 

 

いつからだっただろうか。

一人で過ごさなくなったのは。

もう一年近く経っていて、若干記憶が曖昧だった。

五人で、半ば監視じみたパーティを作ってからか。

ストレアに助けられてからか。

月夜の黒猫団に出会ってからか。

あるいは、最初の層で。

キリトと出会ってからか。

アスナと出会ってからか。

その全てが、なかったのなら。

俺は気兼ねすることなく、ただ、奴を追いかけ続けていられただろうか。

 

 

「…」

 

 

父を討った、仇。

奴は、強い。

現実でも、仮想でも、一人では勝てないだろう。

現に、仮想では、少なくとも一度負けている。

だから、強くなりたかった。

強くなって、仇を討ちたかった。

 

 

「……」

 

 

けれど同時に分かっていた。

それが、いかに無意味であるかを。

仮に、仇を討ったところで、何かが変わるわけでもない。

それどころか、その後に残るのが、虚無感であることも、分かっていた。

だからこそ、意味がない。

誰の為にもならず、ましてや自分の為にもならず。

 

 

「…俺は、何の為に」

 

 

何の為に、戦い続けていたのか。

何の為に、刀を振るっていたのか。

何の為に、命を奪い続けてきたのか。

 

 

「……もう、疲れた」

 

 

自分の口から洩れる弱音に、思わず嘲りの笑みが漏れる。

けれど、そのすぐ後に訪れる眠気。

それに従えば、もう目を覚ませないかもしれない。

 

 

…けれど、もうどうでもよかった。

今はただ、少し、あるいは永遠であっても、休息をしたかった。

 

 

 

…どうせ、それを惜しむ人間はもう、この世にはいないのだから。

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