ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
アインクラッド、第76層。
エギルの店。
そこに、ホロウ・エリアを脱出したストレアとフィリアはいた。
ストレアがエギルの店に行き、エギル経由で皆に連絡を取ってもらい、合流をするに至った。
そこで、ストレアとフィリアは経緯を説明する。
これまで、何があったのか。
そもそも何故、ホロウ・エリアに閉じ込められるに至ったか。
何故、そこにシグレがいないのか。
その全てを、余すことなく。
「……そうか」
その説明に、一番最初に頷いたのはキリトだった。
それでも悔しさがあるのか、目を伏せていた。
付き合いの長さに差はあれど、皆、辛さを孕んだ感情を抱いていた。
その中でも。
「…どういう、ことよ」
ふらり、と覚束ない感じで、二人に歩み寄るシノン。
やがてストレアに近づき、凭れ掛かるように彼女の正面から縋るように身を寄せ。
「なんで…なんで先輩が…死ななきゃいけないの……!」
シノンがなぜこの世界に来たのか、その理由を知る皆は、彼女を宥める術を知らない。
「…う、ぅ……ねぇ、嘘だって言ってよ、ストレア…!」
「っ…」
「……そんなわけないって、否定してよ…!」
嗚咽交じりの懇願に、ストレアは返せない。
というより、誰も何も言えない。
否定する術がないから、当然といえば当然だった。
…そんな雰囲気を打ち破るように。
「おぉおぉ、随分しんみりしてるじゃねぇか、黒の剣士一行様よォ?」
聞き覚えのある、声。
とはいっても、味方のそれではない。
皆が驚くように店の入り口側に視線を向ければ。
「…何しに来た、PoH」
キリトが敵意剥き出しに、皆を守るように前に出る。
けれど、声の主、PoHはそんなキリトを嗤いながら。
「あいつが守ろうとしたやつ、ってのを見に来ただけさ」
PoHのいうあいつ。
それは、今この場がこの雰囲気になっている原因を作った、あいつのことであろうと、誰もが察した。
ここが圏外なら、今にも剣を抜いて、斬りかかりそうなキリトを笑うだけの余裕を見せるPoH。
「…尤も、今にも死にそうな奴も混じってるな。これじゃあ、あいつも無駄死にか!」
HAHAHA、と面白そうに笑うPoH。
「…黙れ」
「……あ?」
「お前に…お前に、あいつの何がわかる!」
キリトがそう、言葉をぶつける。
「あの人は…シグレ君は、人殺しの貴女なんかとは違うわ。彼がいなければ…私はここには、いなかったかもしれない」
「…私だって、みんなだってそう。シグレがいたから、ここまで生きてこれたんだもの」
「そうだな。シグレがいなかったら、俺達は27層で、壊滅してた」
アスナが、サチが、ケイタが思い思いに言う。
「…あんた達だけじゃないわ。シノンだって…あいつがいたから、今ここにいる。そうなんでしょ?」
リズベットの言葉に、シノンは頷く。
「……あの人は…シグレ君は、いつだって誰かを守るために剣を振るってた。貴方なんかとは…違うわ」
アスナがはっきりと、そう告げる。
「違わねェよ。あいつも俺と同じ、人殺しだ」
しかし、PoHはあっさりと否定する。
言い返そうにも、なぜか言い返せない、そんな雰囲気に息を呑む。
「…守るだ何だって言うが、お前ら…戦場でのあいつを見たことあんのか?」
「あ、当たり前でしょう!私だって、みんなだって…!」
「…よせ、アスナ」
「キリト君…?」
PoHの言葉に言い返そうとしたアスナだが、キリトが止める。
「あいつが言ってるのは…恐らくそういうことじゃない」
「…よく分かってるじゃねェか、黒の剣士サマ?」
キリトの言葉に愉快に笑う。
「あいつはなかなか愉快な子供だったなぁ…もう10年くらい経つか。表情もなく大の大人を鮮やかに殺す手際には俺もまぁ震えたぜ。HAHAHA」
この中では、PoHしか知らない事。
だからこそ、言い返すことができない。
「…ま、本題はそれじゃねェんだがな?」
言いながら、PoHは片手に持っていた『それ』を雑に放る。
ずしゃ、と音を立てて放られたのは、物ではなく。
「う、うぐ、ぅ……」
プレイヤーだった。
ただその見た目は、キリト達には見覚えのあるものだった。
「…アルベリヒ!?」
苦痛に呻く、豪華な装備で身を固めたプレイヤー。
キリトは彼の名を呼ぶが、苦痛に呻いたまま、答えない。
「あ、ぅ…!」
そんな彼の両手両足は、切断されていた。
「いやー、静かになるのに少し時間がかかってな。思わず切り落としちまった」
「ひっ!?」
笑いながら言うPoHに、声を聞いただけで震えるアルベリヒ。
「…な、何でだよ…なんでお前みたいなやつに、この僕が……!」
「まだ言ってんのか……」
その声を苛立たしげに返しながら、PoHは肉切り包丁をアルベリヒの顔の脇すれすれに突き立てる。
包丁はアルベリヒの頬を軽く掠める。
「ひいいぃぃぃっ!?だ、誰か助けろ…!」
「…おいおい、見てただろ?お前のお仲間はこいつで掻っ捌いただろうが」
「ひ、ぁ…!」
目の前で繰り広げられる一方的な蹂躙に、皆動けずにいた。
「…悪ぃ、もうちょっとで終わるから待っててくれや」
その様子を笑いながら、PoHは包丁を引き抜き、振り上げる。
「ひ、あ、あ…嫌だ、嫌だっ!こんなところで…!」
その様子を恐怖に震えながら、見ることしかできないアルベリヒ。
両手両足を切り落とされているのだから、抵抗のしようがない、ともいえる。
「嫌だあああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
目の端から涙を流しながら、叫ぶアルベリヒに。
「やかましい」
一つの慈悲すらなくPoHの武器は振り下ろされ、アルベリヒは光の粒に変えられた。