ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~   作:アルタナ

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第81話:招かれざる客 - I

アインクラッド、第76層。

エギルの店。

そこに、ホロウ・エリアを脱出したストレアとフィリアはいた。

ストレアがエギルの店に行き、エギル経由で皆に連絡を取ってもらい、合流をするに至った。

そこで、ストレアとフィリアは経緯を説明する。

これまで、何があったのか。

そもそも何故、ホロウ・エリアに閉じ込められるに至ったか。

何故、そこにシグレがいないのか。

その全てを、余すことなく。

 

 

「……そうか」

 

 

その説明に、一番最初に頷いたのはキリトだった。

それでも悔しさがあるのか、目を伏せていた。

付き合いの長さに差はあれど、皆、辛さを孕んだ感情を抱いていた。

その中でも。

 

 

「…どういう、ことよ」

 

 

ふらり、と覚束ない感じで、二人に歩み寄るシノン。

やがてストレアに近づき、凭れ掛かるように彼女の正面から縋るように身を寄せ。

 

 

「なんで…なんで先輩が…死ななきゃいけないの……!」

 

 

シノンがなぜこの世界に来たのか、その理由を知る皆は、彼女を宥める術を知らない。

 

 

「…う、ぅ……ねぇ、嘘だって言ってよ、ストレア…!」

「っ…」

「……そんなわけないって、否定してよ…!」

 

 

嗚咽交じりの懇願に、ストレアは返せない。

というより、誰も何も言えない。

否定する術がないから、当然といえば当然だった。

 

 

 

…そんな雰囲気を打ち破るように。

 

 

「おぉおぉ、随分しんみりしてるじゃねぇか、黒の剣士一行様よォ?」

 

 

聞き覚えのある、声。

とはいっても、味方のそれではない。

皆が驚くように店の入り口側に視線を向ければ。

 

 

「…何しに来た、PoH」

 

 

キリトが敵意剥き出しに、皆を守るように前に出る。

けれど、声の主、PoHはそんなキリトを嗤いながら。

 

 

「あいつが守ろうとしたやつ、ってのを見に来ただけさ」

 

 

PoHのいうあいつ。

それは、今この場がこの雰囲気になっている原因を作った、あいつのことであろうと、誰もが察した。

ここが圏外なら、今にも剣を抜いて、斬りかかりそうなキリトを笑うだけの余裕を見せるPoH。

 

 

「…尤も、今にも死にそうな奴も混じってるな。これじゃあ、あいつも無駄死にか!」

 

 

HAHAHA、と面白そうに笑うPoH。

 

 

「…黙れ」

「……あ?」

「お前に…お前に、あいつの何がわかる!」

 

 

キリトがそう、言葉をぶつける。

 

 

「あの人は…シグレ君は、人殺しの貴女なんかとは違うわ。彼がいなければ…私はここには、いなかったかもしれない」

「…私だって、みんなだってそう。シグレがいたから、ここまで生きてこれたんだもの」

「そうだな。シグレがいなかったら、俺達は27層で、壊滅してた」

 

 

アスナが、サチが、ケイタが思い思いに言う。

 

 

「…あんた達だけじゃないわ。シノンだって…あいつがいたから、今ここにいる。そうなんでしょ?」

 

 

リズベットの言葉に、シノンは頷く。

 

 

「……あの人は…シグレ君は、いつだって誰かを守るために剣を振るってた。貴方なんかとは…違うわ」

 

 

アスナがはっきりと、そう告げる。

 

 

「違わねェよ。あいつも俺と同じ、人殺しだ」

 

 

しかし、PoHはあっさりと否定する。

言い返そうにも、なぜか言い返せない、そんな雰囲気に息を呑む。

 

 

「…守るだ何だって言うが、お前ら…戦場でのあいつを見たことあんのか?」

「あ、当たり前でしょう!私だって、みんなだって…!」

「…よせ、アスナ」

「キリト君…?」

 

 

PoHの言葉に言い返そうとしたアスナだが、キリトが止める。

 

 

「あいつが言ってるのは…恐らくそういうことじゃない」

「…よく分かってるじゃねェか、黒の剣士サマ?」

 

 

キリトの言葉に愉快に笑う。

 

 

「あいつはなかなか愉快な子供だったなぁ…もう10年くらい経つか。表情もなく大の大人を鮮やかに殺す手際には俺もまぁ震えたぜ。HAHAHA」

 

 

この中では、PoHしか知らない事。

だからこそ、言い返すことができない。

 

 

「…ま、本題はそれじゃねェんだがな?」

 

 

言いながら、PoHは片手に持っていた『それ』を雑に放る。

ずしゃ、と音を立てて放られたのは、物ではなく。

 

 

「う、うぐ、ぅ……」

 

 

プレイヤーだった。

ただその見た目は、キリト達には見覚えのあるものだった。

 

 

「…アルベリヒ!?」

 

 

苦痛に呻く、豪華な装備で身を固めたプレイヤー。

キリトは彼の名を呼ぶが、苦痛に呻いたまま、答えない。

 

 

「あ、ぅ…!」

 

 

そんな彼の両手両足は、切断されていた。

 

 

「いやー、静かになるのに少し時間がかかってな。思わず切り落としちまった」

「ひっ!?」

 

 

笑いながら言うPoHに、声を聞いただけで震えるアルベリヒ。

 

 

「…な、何でだよ…なんでお前みたいなやつに、この僕が……!」

「まだ言ってんのか……」

 

 

その声を苛立たしげに返しながら、PoHは肉切り包丁をアルベリヒの顔の脇すれすれに突き立てる。

包丁はアルベリヒの頬を軽く掠める。

 

 

「ひいいぃぃぃっ!?だ、誰か助けろ…!」

「…おいおい、見てただろ?お前のお仲間はこいつで掻っ捌いただろうが」

「ひ、ぁ…!」

 

 

目の前で繰り広げられる一方的な蹂躙に、皆動けずにいた。

 

 

「…悪ぃ、もうちょっとで終わるから待っててくれや」

 

 

その様子を笑いながら、PoHは包丁を引き抜き、振り上げる。

 

 

「ひ、あ、あ…嫌だ、嫌だっ!こんなところで…!」

 

 

その様子を恐怖に震えながら、見ることしかできないアルベリヒ。

両手両足を切り落とされているのだから、抵抗のしようがない、ともいえる。

 

 

「嫌だあああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

目の端から涙を流しながら、叫ぶアルベリヒに。

 

 

「やかましい」

 

 

一つの慈悲すらなくPoHの武器は振り下ろされ、アルベリヒは光の粒に変えられた。


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