ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
突如目の前で繰り広げられた惨劇に、皆が皆言葉を失う。
「……俺が、あいつの何を知っているか。そう聞いたな、黒の剣士?」
PoHはキリトに向き直り、言葉を続ける。
「俺からも聞かせてもらうが…お前らこそあいつの何を知ってるつもりだ?俺"達"の世界を知らない、甘ちゃんが」
「っ…」
キリトも、他の誰も、その言葉には返せない。
PoHの言う世界は、今の常識からはあまりに掛け離れた世界。
普通に暮らしていれば、精々テレビで知る程度。
「昔がどうだったとか…そんなの、関係ない」
「あ?」
そんな中、フィリアが呟くように言う。
それに、PoHは面白くなさそうに反応する。
「…シグレもそんな事言ってたから、知ってはいるわ。実際、シグレがどうだったかまでは知らないけど」
だけど、と強くPoHを見返しながら。
「…それでもシグレが必死だったことを、私は知ってる。ホロウ・エリアでの事もそう。あいつは自分の命がかかっても、私達を護ってくれた」
対抗するように、否定するようにフィリアは言葉をぶつける。
「シグレにとっては、あんたの言う過去の贖罪だったのかもしれない。それでも私は…シグレを信じる」
もう、二度と会えないとしても。
助けられた以上、生きて脱出しなければ、という義務感。
「……あんたには助けられた恩もあるけど…敢えて言わせてもらうわ」
その視線は、強く。
「あんたこそ…"今"のシグレの何を知ってるのよ」
「……」
迷いがない、フィリアの言葉。
そんな彼女を。
「HAHAHA!」
PoHはただ、笑う。
楽しそうに、笑う。
「…まぁ、いずれにしても、もうあいつはいないがな」
「っ…」
PoHの言葉に、フィリアは言葉に詰まる。
シグレがここにいない。
それは事実だと、頭では理解していたから。
「……わざわざそんな事を言うために、ここまで来たのか?」
「あ?あぁ…」
場所は、エギルの店。
その店主であるエギルが言葉を投げると、PoHは思い出したように。
「一つはそうだな」
「…一つ?」
PoHの言葉に、ストレアが返す。
けれどPoHは答えず、言葉を続ける。
「もう一つは、俺があいつを殺した理由を教えてやろうと思ってな」
「…興味ないな。どうせ快楽的なものとか、誰かに依頼されたとかその程度だろ」
キリトが暗にそれ以上の問答を打ち切ろうとする。
これ以上話をする理由はない、といわんばかりだった。
「…いい勘してるぜ。そう、俺はあいつを殺す依頼を受けた」
「やっぱりな。だったらもう…」
これ以上は興味ない、といわんばかりに剣を抜こうとするキリト。
しかし。
「…その依頼者が、あいつの父親だったとしても、か?」
PoHの言葉に、キリトは手を止める。
「適当な事を…!」
「……お前らが疑うのは勝手だが、嘘じゃねぇんだなこれが」
立ち直ったシノンが言い返すが、PoHはさらりとかわし。
「…何故なら、奴は現実で、あいつの母親を殺したわけだしな」
そう、言ってのける。
皆、一瞬言葉に詰まる。
シグレ自身から、考えてみれば母親の事は聞いたことがなかった。
意図的に避けているのかと思い、誰も追及こそしなかったが。
「それって…」
「言葉通りってこった。奴がのうのうと暮らしてたのは…今回みてぇに誰かに依頼したか、金を積んで出てきたか」
言いながら、PoHは入口の方に振り返り。
「さて、と。依頼完了…邪魔したな」
その手に転移結晶を用意する。
「…っ逃がすか!」
キリトがいち早く反応する。
レッドギルドのボスが目の前にいる、この状況。
あと数層とはいえ、憂いを断つために、捕えるために。
しかし。
「っ…くそ!」
間に合わなかった。
その事実に、キリトは悔しさで拳を壁にぶつける。
「……おい、店を壊すなよ?」
エギルが年長者の余裕からか、そんな風に苦笑交じりに言う。
そんなエギルは店内を見回し。
「お前ら…皆少し休んでけ。コーヒー出してやるから」
悔しさに震える者。
悲しみに暮れる者。
状況が掴めず、混乱する者。
今の状態では、到底この先の攻略など不可能であろう。
年長者であり、攻略の厳しさを知るエギルだからこそ、今どうすべきか。
「…クラインの奢りでな」
「なんでだよ!?俺も奢られる側だろ!」
そんな冗談を交えながら、皆が落ち着く場を提供すること。
それが今出来る事なのだと、エギルは分かっていた。