ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~   作:アルタナ

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第82話:招かれざる客 - II

突如目の前で繰り広げられた惨劇に、皆が皆言葉を失う。

 

 

「……俺が、あいつの何を知っているか。そう聞いたな、黒の剣士?」

 

 

PoHはキリトに向き直り、言葉を続ける。

 

 

「俺からも聞かせてもらうが…お前らこそあいつの何を知ってるつもりだ?俺"達"の世界を知らない、甘ちゃんが」

「っ…」

 

 

キリトも、他の誰も、その言葉には返せない。

PoHの言う世界は、今の常識からはあまりに掛け離れた世界。

普通に暮らしていれば、精々テレビで知る程度。

 

 

「昔がどうだったとか…そんなの、関係ない」

「あ?」

 

 

そんな中、フィリアが呟くように言う。

それに、PoHは面白くなさそうに反応する。

 

 

「…シグレもそんな事言ってたから、知ってはいるわ。実際、シグレがどうだったかまでは知らないけど」

 

 

だけど、と強くPoHを見返しながら。

 

 

「…それでもシグレが必死だったことを、私は知ってる。ホロウ・エリアでの事もそう。あいつは自分の命がかかっても、私達を護ってくれた」

 

 

対抗するように、否定するようにフィリアは言葉をぶつける。

 

 

「シグレにとっては、あんたの言う過去の贖罪だったのかもしれない。それでも私は…シグレを信じる」

 

 

もう、二度と会えないとしても。

助けられた以上、生きて脱出しなければ、という義務感。

 

 

「……あんたには助けられた恩もあるけど…敢えて言わせてもらうわ」

 

 

その視線は、強く。

 

 

「あんたこそ…"今"のシグレの何を知ってるのよ」

「……」

 

 

迷いがない、フィリアの言葉。

そんな彼女を。

 

 

「HAHAHA!」

 

 

PoHはただ、笑う。

楽しそうに、笑う。

 

 

「…まぁ、いずれにしても、もうあいつはいないがな」

「っ…」

 

 

PoHの言葉に、フィリアは言葉に詰まる。

シグレがここにいない。

それは事実だと、頭では理解していたから。

 

 

「……わざわざそんな事を言うために、ここまで来たのか?」

「あ?あぁ…」

 

 

場所は、エギルの店。

その店主であるエギルが言葉を投げると、PoHは思い出したように。

 

 

「一つはそうだな」

「…一つ?」

 

 

PoHの言葉に、ストレアが返す。

けれどPoHは答えず、言葉を続ける。

 

 

「もう一つは、俺があいつを殺した理由を教えてやろうと思ってな」

「…興味ないな。どうせ快楽的なものとか、誰かに依頼されたとかその程度だろ」

 

 

キリトが暗にそれ以上の問答を打ち切ろうとする。

これ以上話をする理由はない、といわんばかりだった。

 

 

「…いい勘してるぜ。そう、俺はあいつを殺す依頼を受けた」

「やっぱりな。だったらもう…」

 

 

これ以上は興味ない、といわんばかりに剣を抜こうとするキリト。

しかし。

 

 

「…その依頼者が、あいつの父親だったとしても、か?」

 

 

PoHの言葉に、キリトは手を止める。

 

 

「適当な事を…!」

「……お前らが疑うのは勝手だが、嘘じゃねぇんだなこれが」

 

 

立ち直ったシノンが言い返すが、PoHはさらりとかわし。

 

 

「…何故なら、奴は現実で、あいつの母親を殺したわけだしな」

 

 

そう、言ってのける。

皆、一瞬言葉に詰まる。

シグレ自身から、考えてみれば母親の事は聞いたことがなかった。

意図的に避けているのかと思い、誰も追及こそしなかったが。

 

 

「それって…」

「言葉通りってこった。奴がのうのうと暮らしてたのは…今回みてぇに誰かに依頼したか、金を積んで出てきたか」

 

 

言いながら、PoHは入口の方に振り返り。

 

 

「さて、と。依頼完了…邪魔したな」

 

 

その手に転移結晶を用意する。

 

 

「…っ逃がすか!」

 

 

キリトがいち早く反応する。

レッドギルドのボスが目の前にいる、この状況。

あと数層とはいえ、憂いを断つために、捕えるために。

しかし。

 

 

「っ…くそ!」

 

 

間に合わなかった。

その事実に、キリトは悔しさで拳を壁にぶつける。

 

 

「……おい、店を壊すなよ?」

 

 

エギルが年長者の余裕からか、そんな風に苦笑交じりに言う。

そんなエギルは店内を見回し。

 

 

「お前ら…皆少し休んでけ。コーヒー出してやるから」

 

 

悔しさに震える者。

悲しみに暮れる者。

状況が掴めず、混乱する者。

今の状態では、到底この先の攻略など不可能であろう。

年長者であり、攻略の厳しさを知るエギルだからこそ、今どうすべきか。

 

 

「…クラインの奢りでな」

「なんでだよ!?俺も奢られる側だろ!」

 

 

そんな冗談を交えながら、皆が落ち着く場を提供すること。

それが今出来る事なのだと、エギルは分かっていた。


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