ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~   作:アルタナ

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Chapter-3:Interlude
第1話:終わりへと導く者


時雨の病室。

そこには二人の人影。

 

 

「……」

「……」

 

 

しかし、談笑をするでもなく、ただ無言。

時雨は無表情、しかしどこか訝しげに。

もう一人、菊岡は笑顔で、その裏に何かを含ませながら。

ただ、無機質な機械音のみが、部屋に響いていた。

 

 

「…もう用が済んだのなら帰ったらどうだ。それとも…俺が思っている以上に役人は暇なのか?」

 

 

静寂を先に破ったのは時雨。

溜息を吐きながら、その相手に毒づく。

 

 

「いやいや、これは僕にとっては大切な仕事のオファーなんだ。時間を割く価値は十二分にある」

 

 

だからこそ、しっかり話を詰めておきたい、と菊岡は続ける。

時雨の病名を知って尚、誘うつもりでいた。

 

 

「…それに、過程はどうあれ、君は他のSAOプレイヤーよりも少し早くログアウトをしている。これが知れれば、君はかの茅場晶彦の協力者だと疑われても仕方がないと思うがね」

「俺を脅すか…」

「とんでもない。僕だって流石に命は惜しい」

 

 

病の進行のせいか、SAOの頃のような覇気のない時雨。

尤も、目の前の男がその違いを知る由もないが。

 

 

「…心配せずとも、お前に対する殺しの依頼はない」

「そうか。それは何よりだ」

 

 

安心して依頼の話ができそうだ、と菊岡は言う。

 

 

「まぁ…話はいずれ、場所を変えて行うよ。今は養生してくれたまえよ」

 

 

言いながら、立ち上がる菊岡。

時雨はそれを特に疑問には思わなかった。

 

 

「…懸命だな。この場では、誰が聞いているか分からない。場所は変えるべきだろう」

「僕の意図を読み取ってくれて感謝するよ…さすがはあの人の息子、といったところか」

「……」

 

 

物言いに、時雨はこの男が何を知っているのか、疑いの視線を向ける。

しかし、男…菊岡は振り返りもせず。

 

 

「…これ以上の問答はやめておこう。君も…随分辛そうだ」

 

 

それだけ言い残し、病室の外に出ていく。

どこまで見抜いていたのか、底が知れない。

そう、時雨は思うが、それ以上の事を考えることは出来なかった。

何故なら。

 

 

「………っ…ごふっ…」

 

 

手で押さえる余裕もなく、重たい咳をする。

それに押し出されるように、時雨の口から鮮血が吐き出され、病室のシーツを赤く汚す。

次の瞬間、先ほどまで無機質で単調なリズムを刻んでいた機械は、けたたましく警報音を鳴らす。

 

 

「っ…く……!」

 

 

次の瞬間、時雨は目の前が暗くなり、そのままベッドに身を落とす。

倒れこんだ時雨の口の端は吐き出されたものか、赤い雫が伝っていた。

 

 

「……」

 

 

言葉を発さない、否、発する余裕のない時雨。

 

 

 

…そんな病室の外では。

 

 

「…さて、ここで死んでしまうならそれまで。だが、もし乗り越えたのなら、その時は……」

 

 

菊岡にとっては、どちらでもいいのか、心配する様子もなく、変わらず柔和な笑みを浮かべる。

 

 

「すみません、失礼します!」

 

 

病室内の異常の通知を受けたのか、菊岡には目もくれず、看護師と医者が駆け込んでいく。

扉の奥からの警報音が、医者が扉を開けたことで少し大きくなる。

その音を聞きながら、菊岡は病室から歩き去っていく。

 

 

「…華月、時雨君。君は…いや、君の家系は…もう誰からも必要とされない。必要としたのが僕達だというのなら…それを不要と切り捨てるのも僕達の役目だ」

 

 

そうだろう?

そう、誰が返すこともない問いを投げながら、菊岡は歩き去っていった。


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