ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~   作:アルタナ

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第2話:仮想世界への誘い

翌日。

 

 

「……」

 

 

時雨は一人、街中に出ていた。

当然ながら、昨日持っていた刀はその手にはない。

目的はその日の食料の買い出しだった。

その途中。

 

 

『―続いてのニュースです』

 

 

ふと、家電量販店のウィンドウに並べられたテレビからニュースが流れてくるのを聞いて、足を止める。

 

 

『昨日、――市で首と体が切り離された死体が発見されました。第一発見者は近くに住む30代女性。被害者は資産家として有名な……』

 

 

聞き覚えのあるニュースに足を止めてテレビ画面を見れば、見覚えのある路地裏の光景が映し出されていた。

 

 

『……これまでに同様の手口による犯行が相次いでおり、警察は同一犯の可能性を視野に犯人逮捕を急ぐと共に、市民への警戒を呼び掛けています』

 

 

画面が切り替わり、CMに移る。

 

 

「……」

 

 

興味を失い、時雨が歩き出そうとすると。

 

 

「…またか。最近多いな…この首切り殺人」

「ホント。早く捕まってくれないと怖いわ…」

 

 

そんな話し声が耳に入る。

背後の通行人の声だろう、と時雨は考える。

そうして、立ち去ろうとテレビから視線を逸らす。

 

 

『――続いてのニュースです。明後日より開始されると発表のあったソードアート・オンラインに全国から期待の声が高まっています』

 

 

明るいニュースだからか、アナウンサーの声も少し明るい。

そんなニュースを聞きながらも、興味を失った時雨は歩き出す。

どれだけ進化しようと、ゲームというものには少しも興味がなかった。

 

 

「……」

 

 

何にも興味がなく、ただ生きているだけ。

それが、今の時雨だった。

何故、自分はこうして生きているのかすら、理由がない。

昨日の男の立場になれば、自分はあんな風に醜く抵抗するだろうか。

 

 

――ま、待て!誰の指示だ、金か!?なら私は倍の報酬を払うから…!

 

 

ふと、命乞いを思い出し、すぐにその考えを振り払う。

…ありえない、と。

そんな醜い姿を晒してまで生きることに、何の意味がある。

何度も死というものを見てきた時雨には、生への執着がなかった。

 

 

「…」

 

 

昨日のようなことは、初めてではない。

けれど、そうして出会った標的ほぼ全員が、同じような反応だった。

初めの頃は、罪の意識なく、手をかけていた。

その為の技術は、幼い頃に既に身についていた。

 

…いつだろうか、それに疑問を抱くようになったのは。

 

…いつだろうか、これがしてはならないことだと悟ったのは。

 

…いつだろうか、自分の家族が普通ではなかったと知ったのは。

 

 

時雨には一つも答えが出せなかった。

考えることをやめ、借りているアパートの一室に戻る。

電子錠を開錠し、中へ。

 

 

「……」

 

 

すると、新聞受けから差し込まれたのか、封筒が玄関口に落ちていた。

扉を閉め、内側のカギをかけてから封を開ける。

また、『依頼』だろうか。

そう思い、中の手紙に目を通すが。

 

 

「……?」

 

 

訝しげに内容を確認する。

その内容は、今までのような『依頼』ではなかった。

中に書かれていたのは。

 

 

 

――明日到着予定の荷物を、自宅にて受け取り、内容を確認せよ。

 

 

 

それだけだった。

依頼、にしては報酬に関する記載すらない。

どこか奇妙にすら感じる。

差出人の名前も連絡先もないため、今は従うしか方法がない。

 

 

「…」

 

 

釈然としない部分もあったが、それ以上疑うことはしなかった。

 

 

 

そして、翌日。

 

 

「これは…」

 

 

差出人不明の荷物を受け取り、封を開ければ、そこにあったのは。

 

 

「…確か、ナーヴギア」

 

 

昨日のニュースでも話題になっていた、ソードアート・オンライン。

そのゲームを動かすハードウェア。

今話題のその機械とともに、一通の手紙。

 

 

――ソードアート・オンラインのβテストに参加し、内部での戦闘方法を身につけてほしい。

 

 

「……」

 

 

時雨は疑問に思う。

そんな事をして、一体何があるというのか。

所詮、ゲームはゲーム、遊びの世界。

娯楽には興味がなかったが故の発想。

しかし。

 

 

「…」

 

 

手紙に付記された、アカウント情報。

使え、ということなのだろう。

とはいえ。

 

 

「……明日か」

 

 

時計を見ながら、呟く。

どれだけ疑っても、それを断る権利は、自分にはない。

そう、考えていたからこその、行動。

時計は、15:30を指していた。

 

 

…意図を知る必要などない。

 

…ただ、与えられた任務を遂行すればいい。

 

 

だからこそ、時雨は明日に向けて準備を行う。

 

 

…それが、時雨自身に変化をもたらす、全ての始まりになることを誰も。

 

…彼自身すら、まだ知らない。


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