ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
気を取り直して。
「…話を再開してもいいかしら?」
詩乃の問いに、和人はあぁ、と若干の冷や汗を流しながら答える。
直葉も横目で兄を見る。
二人の視線は語っていた。
空気を読め、と。
「……私は復帰して、数日は復帰後の検査やらで行けなかったけど、その後に先輩が入院していた病室に行ったのよ」
そうしたら。
「先輩の病室は、空になっていた」
「…それって」
詩乃の言葉に直葉が続く。
「時雨さんは、誰かによって退院か転院の手続きをした?」
「もし、先輩が生きているのなら、だけど」
詩乃は直葉の推測を肯定する。
「それと、先輩…私と同じアパートに住んでたんだけど、退院した後すぐにそこに行ったら、完全に引き払われていたわ」
「…それは、妙だな」
次の言葉には、和人が考える。
「もし死んだのだとしたら、あいつの家族とかがそういう手続きをするはずだろ?でも…あいつには家族はいない」
「…それって」
「誰かが手回しをしたって考えるのが、妥当な線じゃないか?」
和人は多少なりとも身の上話を聞いていたからこそ、そんな推測をする。
そのことも含め二人に話したとはいえ、さすがに情報の整理が追い付いていなかったようで、直葉と詩乃は和人の言葉に納得する。
「…つまり、先輩が生きていると仮定してだけど…その場合、先輩の転院の手続きやら何やらをして、その場にいなかったように見せてるって…そういう事?」
「あぁ…恐らく」
だとすれば、誰が。
その疑問が三人の中に浮かぶ。
「…ちなみに、この事他の誰かには話したの?」
「いや、まだ。本当に生きてるって確証が持てるまでは話さない方がいいかと思ったんだ。そもそも連絡先知らないけどな…」
「そう…」
何か手掛かりがあれば、それを頼ることもできるだろうが、なければ人海戦術になる。
しかし、現状ではそれも厳しい。
「…そうだ。ALOの中で皆に話してみたら?」
「とはいってもなぁ…」
直葉の言葉に和人は考える。
その理由は言うまでもない。
もしシグレが本当に死んでいたら、意味なく余計な希望を与えることになりかねない。
しかし。
「…大丈夫よ。私が言うのも何だけど…そこまで弱くないわよ、皆」
「うん。私もそう思うよ。だからさ、お兄ちゃん」
詩乃と直葉に諭すように言われ、少し考えて。
「…そう、だな。分かった、皆に話してみるよ…スグも手伝ってくれるか?」
「もちろん」
そう、和人は意思を決め、直葉も迷わずに兄を手伝うことにする。
「ま、ここまで私達を焚きつけておいて、何を今更…な気もするけどね」
「うぐ」
和人の反応に満足したのか、軽く笑みを浮かべ。
「じゃ…ALOの方は任せるわよ。お二人さん?」
「うん、任せて…ね、お兄ちゃん?」
「あぁ…そっちはどうするんだ?」
そう言葉を交わし、軽く拳を突き合わせる。
和人の問いに詩乃は考えることなく。
「私は病院の方をあたってみるわ。ずっとお見舞いに行ってたからある程度顔は利くと思うし」
「なるほど…」
とにもかくにも情報収集。
こうして三人は動き出していく。