ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
しかし、そのすぐ後。
「うわぁっ!?」
「!?」
声がした方を見れば、光剣を構えてこそいるが、自分から後ろに飛んだとは思えない不自然な体勢で後ろに飛んでいる。
そんなユウキの前から、光剣を構えてユウキに一気に距離を詰めるプレイヤー。
その切っ先は、空中で受け身すら取れないユウキを捉えていた。
「っ!」
シノンは咄嗟に自らの愛銃、ヘカートIIを構え、狙い撃つ。
倒すのが目的ではなく、ユウキを安全な場所に逃がすための牽制。
足元を狙ったからか、銃声音と共に銃弾が地面を穿ち、大きく砂埃があがる。
命中したかどうかも分からない。
先ほどの在り様を考えれば、避けられた可能性が高いだろう、とシノンは思う。
しかし、今はそれは重要ではなかった。
「ユウキ!」
シノンはユウキが吹き飛ばされた方に駆ける。
「ちょっと、大丈夫?」
「あ、あはは…失敗失敗」
シノンが心配して声をかければ、ユウキは気まずそうに笑う。
HPが若干減少こそしているが問題はなさそうだった。
その様子に、シノンは安堵の息を漏らす。
「…立てる?」
「あ、はい…」
シノンが支えながらユウキが立ち上がる。
「…それで、何があったの?」
「えっと、ですね…」
ユウキの話によると。
シノンが話を聞いている間も、ユウキは近くを調べていたという。
その先で、銃声が聞こえ、戦っている事に気づき、様子を窺っっていた。
1対4くらいで、ユウキ曰くなんか凄そうな銃とかバズーカみたいのとか、で一人のプレイヤーを集中的に狙っていた。
一人の方を助けた方がいいのか、どうなのか、等と考えている間に砲撃の嵐が一人を襲い、土煙が凄いことになった。
普通なら、一人の方がやられてしまうだろう。
…しかし、いざ土煙が晴れてみれば。
「……狙った四人全員が倒れてた?」
とのこと、だった。
それで、止めを刺される前に助けようと剣を構えてそのプレイヤーに戦いを挑んで、あとはシノンが知っての通り、とのこと。
「……」
シノンは考える。
もしそれが本当なら、その実力はニュービーどころかトッププレイヤーのそれといえる。
まして、20人以上を相手にできるとすれば、分が悪すぎる。
本当なら体制を立て直す意味で、一度退くべきだろう。
けれど。
「ユウキ」
「?」
「…まだやれる?」
シノンは銃を構える。
その視線の先は、ユウキを捉えていない。
ユウキがつられてシノンの視線の先を追い。
「…はい、もちろん」
ユウキも光剣を構えた。
…そこには、二十余人を戦闘不能にまで追い込んだプレイヤー。
光剣を構え、ユウキと相手が地を蹴る。
「せやあぁっ!」
「……」
ユウキの一気呵成な連続突き。
しかし、それらは無言で全て光剣で弾かれる。
「くっ…」
弾かれ、次の攻撃に移ろうと地面を踏み込んだ、ほんの一瞬。
その一瞬ですら。
「な…!」
隙だとみなされてしまう。
ユウキが踏み込み、相手に視線を向けた瞬間には、既に懐に潜り込まれていた。
ユウキに狙いを定める、髪の間から覗くその視線は、獲物を狩る獣のようで。
「っ…」
恐怖すら覚えたユウキはバックステップで距離をとる。
否、とろうとした。
「……」
相手はやはり無言で、後退するユウキの隙を逃さない、と言わんばかりに距離を詰める。
「く、うぅっ!!」
とはいえ、ユウキとてALOで剣の扱いに長けたプレイヤーである。
バックステップで交代しながら自らの光剣をやや乱暴に振るう。
相手もそれに対応するように光剣を振るい、剣がぶつかった衝撃で、ユウキと相手は僅かに後退する。
「…今!」
場所取りを完了していたシノンはその隙を逃さない。
狙いを定め、銃撃を放つ。
その銃撃に、相手は動かない。
シノンは、獲った、と確信した。
ここから銃弾が届くまで、せいぜい1秒程度。
まして、その銃弾を目視すらしていない。
避けられるはずがない。
そう、シノンは考えていた。