ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~   作:アルタナ

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第17話:戦闘訓練、戦う意味

翌日。

 

 

「やぁっ!」

「っ…」

 

 

圏内の少し開けたスペースで、ギルドの皆が見守る中、シグレとサチが練習用の木製の武器で打ち合う。

打ち合う、とはいっても決闘ではないためHPが減ることもない。

更に言えば、シグレは防御のみで、一方的にサチがシグレに打ち込んでいる。

先日話に出た、訓練の最中だった。

シグレは剣、サチは槍。

 

 

「……」

 

 

そんな中、攻撃を受けながら、シグレはサチの戦い方に目をやる。

これまでの経験からか、相手に意識を向けながら戦う事に慣れていたシグレにはそれほど困難ではない。

気になっていたのは、サチの攻撃の仕方だった。

それを聞くために。

 

 

「せいっ!」

「……」

 

 

徐々に動きこそよくなっていたが、それでもシグレにとってはまだまだ、と言わざるを得ない動き。

そんなサチの攻撃を、木刀とはいえ、それで弾くことは容易で。

 

 

「ひっ…!?」

 

 

打ち上げられた武器を手放し、その場に尻もちをついてへたり込んでしまう。

槍は宙を回転しながら舞い、やがて、カランと音を立て地に落ちる。

 

 

「……平気か?」

「う、うん……ごめんね。戦うの下手で…呆れちゃった?」

「それはいい。そのための訓練だからな」

 

 

それよりも、とシグレは続ける。

戦いの上手い下手は、このVRの世界では特に技術に拠るところが大きい。

それは訓練次第、経験次第でどうにでもなる。

実際、少しずつではあるが打ち込み方が様になってきていた。

 

 

「…何故、打ち込む瞬間に目を閉じる。気配で相手を斬れるのは達人の域だと思うが」

 

 

しゃがんで視線を合わせるシグレに言われ、サチはう、と呻く。

シグレが打ち合った感覚としては、サチは決して、シグレが言う達人の域ではない。

目を閉じて、我武者羅、というのがシグレが感じたサチの攻撃。

そして、それはサチも自覚があったのか。

 

 

「……笑わない?」

 

 

サチが確認するようにシグレに尋ねる。

シグレは表情を変えず、無言で先を促す。

 

 

「その…ね。怖いの。戦う事もだけど……相手が私を殺そうとしてくるのを見るのが怖い。私の武器が相手を貫いてしまうのを見るのが…怖い」

「……そうか」

 

 

こうして戦い続けてきた中で、シグレはとうに忘れていた感覚だった。

戦争中というわけでもないのだから、当然といえば当然。

けれど、それは決して忘れてはいけない感覚。

 

 

「その怖さは…忘れるな」

「…え?」

 

 

シグレの言葉に、いつの間にか俯いていたサチは顔を上げ、シグレの顔を見る。

サチからすれば、その言葉が意外だったのだろう。

 

 

「でも、怖がってばかりじゃ戦うなんて…」

「…そうだな。怖がって『ばかり』では駄目だろう」

 

 

だが、とシグレは続ける。

シグレはその手をサチの頭に乗せ、あやすようにしながら。

 

 

「だが…戦わなければ、目の前の相手を倒さなければ、自分が守りたい者が殺されるのだとしたら。そんな状況であっても…お前は逃げるか?」

 

 

シグレの言葉に、サチは、ふと周りを見回す。

高校の同じクラブのメンバーでもあり、今は同じギルドの仲間でもある皆。

次に、前に視線をやる。

このゲームの世界で救われ、流れではあるが共に行動する仲間になったシグレ。

 

 

「…私が、やらなきゃ……死んじゃう…?」

 

 

サチはふと、考える。

今でこそこうして皆で一緒に過ごせているが、もし皆が死んで、私だけ取り残されてしまったら。

自分が戦えば、避けられた、という状況だったとしたら。

もし皆が死に、自分だけが生き残ってしまったら。

…自分を、赦せるだろうか。

 

 

「…そんなの、やだ…!」

 

 

サチは最悪を想像し、それを拒絶する。

シグレはサチから手を放し。

その目は、確かな決意が見て取れる。

 

 

「…ねぇ、シグレ」

 

 

サチは木製の槍を拾い、立ち上がる。

それに合わせるようにシグレも木刀を拾い、サチに向き直る。

 

 

「私…怖いけど、強くなりたい。シグレみたいに戦えるようになるかは分からないし、ここにいる全員を守る、なんて事は言えない…だけど、せめて…私が大切な人たちは、私の力で守れるように」

 

 

武器を構えるサチ。

その構えは先ほどまでと同じ構え。

けれど、先ほどとは違う何かが、シグレにも、見守っていた皆にも感じられた。

 

 

「……もう少しだけ、手伝ってくれる…?」

 

 

優しい口調で、けれどサチの表情は、先程までの怖さを残しつつ、前を向こうとしていて。

 

 

「…いいだろう」

「ありがと…シグレ」

 

 

シグレも答えるように、木刀を再度構える。

敵を倒すためではなく、大切な物を守るために武器を取るサチ。

 

 

「せやああぁぁぁっ!!」

 

 

その強さを求めて、サチは槍をシグレに向ける。

シグレはそんなサチに、自分の持てる力を以て相対する。

傍から見れば、決闘に見えなくもない程の気迫。

 

 

木製の武器が打ち合う音が、先ほどより少しだけ大きく響いた。


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