ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~   作:アルタナ

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第14話:孤独な決意

都内某所にて。

 

 

「……」

 

 

時雨は現実にて目を覚ます。

 

 

「やぁ、お帰り。なかなかの活躍だったようじゃないか」

 

 

そんな時雨を迎えたのは、どこか飄々とした男の声。

それが誰なのかは、誰に言うまでもない。

 

 

「…暇なのか?」

「まさか。僕にも仕事はあるよ…そのうちの一つが、君の管理、というのもあるがね」

「管理…ね」

 

 

菊岡の言葉に、時雨は一つ溜息を吐く。

管理、という言葉の意味を察しての溜息。

 

 

「モニター上でわかるだけでも、30人以上のプレイヤーを戦意喪失…実に素晴らしい」

 

 

大袈裟な賛辞に、白々しさすら感じつつ、時雨は無言。

それに気づいてか気づかずか。

 

 

「…それはそうと、最後に戦った二人だが」

 

 

話を切り替える。

それに思うところがあったか、時雨は視線を菊岡に向ける。

 

 

「彼女たちは、君が戦った中でも特に強そうな印象を受けたようだけど?」

「……そうだな」

 

 

菊岡の言葉に時雨は同意する。

というのも。

 

 

「まさか、SAOと同じ名だとは…な」

 

 

シノン。

時雨とて、自分を追いかけてきた、という相手の名前を忘れるほど野暮ではない。

それが本人かどうかは確かめようがないが、戦い方を見て、確信こそないが時雨は気づいていた。

敵を射抜かんとする、戦いにおける鋭い眼光。

SAOにおいて時雨が知る彼女と、同じだった。

 

 

「……」

 

 

だからこそ、時雨は本気で相手をした。

自分らしく過ごす、というのが任務だったから。

自分がいかに、狂っているのかを、知っていたから。

知り合いだから、等というのは言い訳にすらならない。

だからこそ。

 

 

「…俺は、誰かの手を取ることはない」

 

 

時雨にとっては、あまりに汚れた自らの手。

その右手で作った握り拳を見ながら、呟くように時雨は呟く。

それは、孤独への決意。

 

 

「……僕としてはどちらでもいいんだがね。まぁ、君がそうしたいのなら、それでいいだろう」

 

 

モニターで見た戦いぶりに納得したのか、菊岡はそこで話を打ち切る。

 

 

「さて、検診の時間だろう…次は3日後になるかな」

「…そうか」

 

 

VR用の機器を外しながら時雨は軽く返す。

 

 

「…どうする?知り合いがいるのがやり辛いのなら、別のVRを用意するが?」

「……構わない」

「ほう?」

 

 

菊岡の探るような視線を一瞥して、時雨は答える。

 

 

「…知り合いだから殺せない。その程度ではお前の要求に応えられないだろう」

「そう言ってもらえてよかったよ。否定的な意見だったら、僕は君を追い出さねばならなかっただろうからね」

 

 

菊岡の笑えない冗談に時雨は一つ溜息を吐く。

そんな中で、時雨も一つ気になっていることがある。

それは。

 

 

「……それと、最後に戦った剣士は君の事を知っているようだったが、彼女も知り合いかい?」

「…」

 

 

 

―――しぐ、れ…さん……?

 

 

 

確かに、そう呼ばれた。

あの後すぐにログアウトした為、話をしてはいない。

おそらく、彼女は知っているのだろうが。

 

 

「…さて、な。そこまで報告の義務はないと思うが」

「まぁ、その通りだがね」

 

 

時雨は答えをはぐらかす。

菊岡も、それ以上の追及はしなかった。


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