ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~   作:アルタナ

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第15話:為すべきこと

医務室にて。

 

 

「…それで、彼の容体はどのような感じかな?」

「……」

 

 

菊岡が、時雨の担当医に声をかける。

それに、医師は軽く言葉を詰まらせながら。

 

 

「……このまま何も手を打たなければ、半年……持てばいい方でしょう」

 

 

言いづらそうに、けれど確実に告げる。

それに菊岡は軽く片眉を吊り上げるも。

 

 

「…そうか」

 

 

とだけ返す。

 

 

「この状況を打開するとすれば……」

「…移植、かな?」

 

 

医師の言葉を遮るように、菊岡が尋ね返せば、医師は頷く。

とはいえ、それには当然のように付き纏う問題がある。

 

 

「…ドナーがいないがね」

「っ…」

 

 

菊岡の言葉に、医師は言葉を詰まらせる。

けれど、焦る様子は見せない菊岡に。

 

 

「……思い違いなら申し訳ないのですが」

「何かな?」

「貴方は……彼を助ける気は、ないのですか?」

 

 

医師のあまりに不躾な質問。

それでも菊岡は柔和な笑みを崩さない。

それが医師には不気味にすら感じた。

それに気づいてか気づかずか、菊岡は窓の方に振り返り、医師に背を向ける。

 

 

「……少し、御伽噺をしようか」

「は…?」

 

 

突然の言葉に、医師は疑問符を浮かべる。

それに構わず、菊岡は背を向けたまま、話を続ける。

 

 

「…かつて…遠い昔には、色々な仕事があった。その中には当然……今となってはあり得ない職業もあった」

「…」

「それがなぜ存在したかといえば…需要があるから。だからこそ、仕事になる…それは私のような役人も、君のような医師も例外ではない」

 

 

医師からすれば、話の意図が見えない。

 

 

「そうして時代に必要とされ、仕事は引き継がれてきている。なかには淘汰されたものもあるが…ね」

「……」

「…表沙汰にはなっていないが…それは殺しすら、例外ではない」

 

 

淡々と述べる菊岡に、医師は言葉を詰まらせる。

けれど冗談では済まされないその雰囲気に、反論すらできない。

 

 

「誰にでもできることではないからこそ、仕事として成立する……それがたとえ、反社会的であっても、ね。そして僕の仕事は、社会をよりよくする事。そこには、この社会に不要なものを排除することも、含まれているんだよ」

「……彼は、貴方の言う社会に不要な存在、だと?」

 

 

医師の言葉に、菊岡は答えず。

 

 

「…かつては、殺しの仕事の需要も一定数存在し……それは今も続いているそうだ」

「……」

「物心がつく頃に握っていたのが刀と人の生首なんて…どれだけ狂えばできるのだろうね?」

 

 

それだけ言い残し、菊岡は歩き出す。

進む先は、医務室の出口。

 

 

「半年…だったね?なら余裕を見て、三ヵ月後にはこちらの仕事に入ってもらうようにしよう。延命処置は…しっかり頼んだよ」

 

 

それだけ言い残し、菊岡は今度こそ去っていく。

パタン、と閉まるドアの音とともに、部屋の中には無機質な機械音のみが支配する。

 

 

「……君は、一体」

 

 

何者なんだ、と医師は心の中で問いかける。

当然、誰にも伝わらない問いに答える者はいない。

 

 

「…そうではないな。私は…医師だ」

 

 

患者が何者であろうと、命の危機に瀕しているのなら救うために全力を尽くすのみ。

その思いを胸に、医師は電話を取る。

 

 

「……もしもし。あぁ…私だ。すまないが…」

 

 

自らの携帯電話でどこかに電話をする。

そんな彼の服には、彼の名を示す札がかけられている。

彼の名は『倉橋』。

 

 

「…あぁ、そうだ。華月時雨君の事だ……」

 

 

その連絡先がどこなのかは、彼のみぞ知るところ。


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