ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~   作:アルタナ

216 / 251
第18話:彼の望み - II

医師は言葉を続ける。

 

 

「…そうだとしても、私は君を助けるために全力を尽くします」

「……」

 

 

医師の言葉に時雨は答えない。

単に答える気がないのか、答える気力がないのか。

それは時雨自身にしか分からない。

 

 

「これは、君の為ではありません。担当患者を救えなかった、という傷を作りたくない私の我儘です」

 

 

苦笑する医師、倉橋。

そんな彼に時雨は表情一つ変えず、目を閉じたまま。

 

 

「…それに、それだけではないのですよ。君を救いたい理由というのは」

 

 

なおも、話を続ける。

それを時雨が聞いているかは気にしていないのか。

ただ、聞かせたいだけのようにも見える。

 

 

「私は…ある一人の少女を診ました。病名は…後天性免疫不全症候群」

 

 

発症を遅らせる事、可能な限り治療を行う事。

あらゆる手を尽くしたものの、発症を止めることも適わず、衰弱していく患者を救えなかった。

 

 

「……」

 

 

時雨は目を開き、医師に視線を向ける。

彼は俯いていた。

それは、自らの無力さに対する苛立ちか。

もしそうだとしたら、それは時雨がよく知る感情だった。

 

 

「…ですが、少女は……助かった」

 

 

彼女の両親がどこから手に入れたのか大量の資金。

それをもって、海外に渡っての治療。

それにより、最先端の治療を受けることにより、免疫の回復に成功。

今では、経過観察の為に通院こそ続けているが、日常生活に支障がない程になっている。

そう、思い出すように告げる。

 

 

「それがどうした」

 

 

時雨は溜息交じりに尋ねる。

助かる助からないは、助かったのならそれでいいのではないか。

それを、話す理由が何なのか。

それが、時雨には分からなかった。

 

 

「この話は、続きがあるんですよ」

「…俺が聞く理由があるのか?」

「君だからこそ、聞く理由があると思っています」

「……」

 

 

倉橋の頑なともいえる話し方に時雨が折れた。

溜息交じりに視線で先を促す。

 

 

「……君は、気になりませんか?」

「大量の資金の出どころ…か」

「そうです。海外に渡っての治療など、そう簡単ではない…それこそ、数百、数千円の話ではないのですから」

 

 

妙にもったいぶった言い方をする倉橋。

そんな彼に、時雨は何も言わない。

 

 

「…後に聞いたのですが、彼女の両親は、親を失ったある少年を表向きに引き取り、その少年が住んでいた家を売却して資金を得たそうです」

「……」

「その後、その両親は亡くなったそうです。自殺…とのことですが」

 

 

理由は想像はできますが、確証はありません。

そう、倉橋は続ける。

 

 

「……その後、遺された少女はその事実を知ってしまった。そして…一人の少年を犠牲にして自分が助かってしまった、という自責の念に駆られるようになってしまった」

 

 

その時から、少女が心から笑うことはなくなってしまった。

決して許されないと思い込んだ罪に捕らわれてしまった。

 

 

「聞いた話では、今もその少年を探し続けている、と聞いています。ですが少女が真実を知ったのは今から2年程度前…そしてその相手がSAOに捕らわれていて、未だに話もできていないそうです」

「……」

「ですが、SAOの事もあり、VRの世界でなら、相見える機会があるかもしれないと…藁にも縋る思いで様々なVRゲームをプレイしていると」

 

 

そこまで言って、医師は言葉を切る。

その視線は、知らないとは言わせない、と暗に物語っていた。

おそらく、この医師は初めから知っていたのだろう、と時雨は推測し、反論を諦めた。

 

 

「…これは君たちの問題です。だから…君に少女のことを許してほしいとか、そんな事を言うつもりは一切ありません。憎んでいるのなら、それでもいいでしょう。ですが…」

「……」

「もし少しでも彼女の事を気にかけてくれるのなら…せめて、話を聞いてあげて欲しい」

 

 

少女がその心の重荷で変わってしまったことを知っているからか。

倉橋は懇願するように、そう時雨に頭を下げた。

 

 

「……話は終わりでいいか?」

「時雨君…」

 

 

時雨はベッドに身を落とし、倉橋に背を向けて横になる。

その様子に、倉橋は伝わらなかったか、と諦めるように一つ溜息を吐く。

仕方ない、と立ち上がり、部屋を後にしようと時雨から目を離した瞬間。

 

 

「っ!?」

 

 

医療機械が突然けたたましい警告音を鳴らす。

振り返り、機械を見れば警告灯が点滅していた。

すぐに時雨に視線を向けると。

 

 

「ごほっ…が………っ!」

 

 

敷布団の白いシーツ。

そのうち、掛布団の下が真っ赤に染まっており、蹲る体勢になっていたせいか、時雨の服の胸元も真っ赤になっていた。

 

 

「っ…!」

 

 

直感的にまずいと察した倉橋は、連絡用の子機をとり。

 

 

「急変だ、すぐに看護師を寄こしてくれ!ASAP!」

 

 

叫ぶように要請しながら、緊急の治療に当たるのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。