ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
ALOにて。
「いやー、強いなぁユウキ」
「それを言ったらキリトこそ。ボクも結構危なかったよ?」
互いの健闘を称えるキリトとユウキ。
肩で息をしてこそいるが二人とも笑顔で、まだまだいける、と言わんばかりの余裕を残しているようにも見えた。
ちなみに戦績はというと、互角でこそあったが、若干ユウキが勝ち越していた。
「…改めて、キリトだ。よろしく、ユウキ」
「こちらこそ、キリト」
剣を納め、握手を交わす。
「…もしかして、ユウキって今噂になってる『絶剣』?」
「「ぜっ……けん?」」
様子を見ていたリズベットがユウキに尋ねると、ユウキ本人と、それを知らなかったのかアスナから鸚鵡返しに尋ね返す。
あまりに息の合った所作に。
「息ぴったり…」
フィリアが微笑ましさ半分、可笑しさ半分にそういうと、二人して少し恥ずかし気に俯いてしまう。
その様子がフィリアから周りに感染するように皆が笑みを零すのだが、当の本人は気づいていない。
「……あの、ぜっ…けん?って…?」
ユウキが慌ててどっちを向いていいか分からなくなりながらもシノンを見て尋ねる。
しかし。
「…知らないわよ。そもそも私はALOにコンバートしてきたのは今日初めてよ?」
「あ……そっか」
溜息交じりのシノンにユウキはまた俯いてしまうのだった。
「いつからか、誰が言い始めたかまでは知らないが……絶対無敵の剣士だから『絶剣』…てな」
「へー…」
「…君だろ?OSSを賭けての決闘で挑んでくるプレイヤーを千切っては投げ千切っては投げ…」
「……あ、あはは…千切っても投げてもいないかなぁ…」
キリトの誇張にユウキは苦笑しつつ、静かに訂正する。
すべてを否定しないあたり、それは認めていることになるのだが、果たして気付いているかどうか。
それは当人のみぞ知るところ。
「……さて、それじゃ行こうか」
「へ?…何処に?」
「何処にって…GGOでしょ。何でここに来たのか思い出しなさい」
キリトの言葉にユウキが尋ね返せば、溜息交じりにシノンに指摘される。
その指摘に、あ、と一言漏らすユウキ。
「…決闘が楽しくて、忘れてた」
恥ずかしげに言うユウキに一行から笑いと溜息が溢れる。
溜息は言うまでもなくシノンのものだが。
「なんか…シグレみたい」
「?」
「…あ、その…何ていうか。シグレだったらそんな反応かなぁっていうか…」
サチがシノンにそう、声をかける。
するとシノンは彼女から視線を逸らし。
「…それは、私にとっては最高の誉め言葉ね」
「え?」
シノンの言葉に、サチは彼女を見る。
隣から見たシノンの横顔は、性別こそ違えど、シグレとよく似た雰囲気に見えた。
簡単に話を聞いてこそいたが、彼女の中で彼の存在がどれほど大きいか。
彼女にとって、彼がいかに大切な存在なのか。
それを間近に見せられている気がしていた。
「あの人がいなければ、今の私はここにはいない。たとえあの人の手が血で赤く染まっていようと、私は先輩の隣で、先輩を支えられるくらいに強くなりたい…それが、今、私が生きる意味。GGOっていう世界で戦ってる意味なのよ」
その先に見つめているのは、何なのだろうか、とサチは思う。
けれど、きっと尋ねても答えは返ってこないだろうと思い、自らの推測に留める。
「…強い、ね。シノン」
「強いのは私じゃない…先輩よ」
「…ううん、シノンも十分強いと思う。私なんてキリトやユウキみたいな戦う強さも、シノンみたいな心の強さっていうのかな。そういうのもないから…」
憧れちゃうな、とどこか自虐的に笑うサチにシノンは彼女を見る。
その視線に感情は特に見えなかったが。
「……私からすれば、貴女だって十分強いと思うけど」
「え?」
シノンの言葉にサチは意外そうに彼女を見る。
「あの人が死んだっていう話になっても、貴女はずっと生きてたって信じてたんでしょ?だからこうしてここにいる。その信じ続ける強さを持った人を『強い』と言わないで、なんて言うのか…逆に教えてほしいのだけど」
少なくとも、私にはなかった強さだから。
そう、シノンは告げ、サチから視線を逸らす。
「……謙遜するなとは言わないけど、もう少し自分に自信を持っても…いいんじゃないかしら。その調子だと、GGOじゃカモにされるわよ」
じゃ、また後でね。
言いながら、シノンはログアウトの処理をしたのか、光に包まれて姿を消した。
その様子を見送った後。
「…ありがとう」
誰にも届かないお礼を告げ、サチも光に包まれてログアウトを終えた。