ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~   作:アルタナ

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第18話:温かさの中にいる資格

その日の夜。

 

 

「……」

 

 

ギルドの皆で食事を終えた後、各々に割り当てられた宿の一室。

シグレは割り当てられた部屋で一人、自分の手のひらに視線を落とす。

別に何があるわけでもない。

細かく再現されているとはいえ、仮初の自分の体。

 

 

「幻影の、死神……か」

 

 

ふと、数日前に聞いた、巷を騒がせているプレイヤーの二つ名。

話を聞く限り、それはきっと自分の事だろうと察するシグレ。

現にシグレは迷宮区のボスを何度も単騎撃破していた。

姿は見られないようにしていたはず。

しかし却ってそれが謎のプレイヤーとして、周りの気を引いてしまっていたらしい。

 

 

「…」

 

 

目を閉じ、軽く笑みを零す。

死神、という単語が自分にはお似合いか、と思いながら。

そうしてシグレは自分を戒め続けていた。

だからこそ、シグレにとって、ギルドという場所は些か温かすぎる。

…だからこそ、ずっとここにはいられない、と。

 

 

「っ…」

 

 

ぐっ、と軽く拳を握る。

シグレが加入した時に比べ、黒猫団の皆は強くなっていたことが明らかに見て取れた。

ここ数日共に過ごしていて、分かったことがある。

彼らは、新規加入である自分を仲間として、分け隔てなく扱ってくれた事。

それは簡単なようで、実は結構難しい。

自分がそう思っていても、相手がそう思っているとは限らない。

それが出来る月夜の黒猫団は、いいギルドだ、とシグレは思っていた。

しかし、だからこそ。

シグレはここに居続けるのは難しいだろうと察していた。

それは、シグレがβテスタだからとか、そんな理由ではなく。

シグレ自身が、そういった場所を自分の居場所として受け入れられずにいた。

 

 

「……」

 

 

過去に何があろうと、それを乗り越えていかなければ、ただの子供の意地でしかない。

それはシグレとて分かっている。

しかし、過去を乗り越えるだけの強さをシグレは持ち合わせていなかった。

乗り越えられていない過去が、シグレを孤独に縛り付けていた。

 

 

「…?」

 

 

そんな事を考えていると、コンコン、と小さなノックの音が響く。

何だろうと思い、扉を開ける。

 

 

「…どうした?」

「その…眠れなくて。入っても…いい?」

 

 

訪ねてきたのはサチだった。

寝巻姿で、枕を抱えてきた彼女をそのまま返すのもどうかと思い、部屋に招き入れることにした。

 

 

 

 

シグレとサチは2人、並んでベッドに腰かける。

 

 

「…その、ごめんね?こんな遅くに突然」

「いや…別にいい。何かあったか?」

 

 

尋ねると、サチは少し俯いて考えるが、少しして顔を上げ。

 

 

「……眠れなくて。少し、お話しても…いいかな?」

「…」

 

 

サチの問いに、シグレは無言の肯定を返す。

 

 

「間違ってたら、それでもいいの。シグレ…ギルド、抜けようと思ってるでしょ?」

「っ……」

 

 

シグレは一瞬言葉を失う。

それは、まさに今考えていたことだったからだ。

 

 

「分かるよ。だって…シグレ、私達とは違う何かを見てる。そんな気がするから」

「……」

「無理に聞こうとは思わないよ?けど…良ければ理由、聞いてもいいかな」

 

 

聞かれて何も答えないわけにはいかない。

けれど全部を話すつもりもないシグレ。

だから、シグレは。

 

 

「…ここは、いいギルドだ。仲間のことを大事にして、いい繋がりもある」

「うん」

「……だが、だからこそだ。俺には少し、温かすぎる」

 

 

それは、シグレが思っていた本心だった。

今隣にいるサチや、ギルドの皆からすれば、仲間内で仲良くするのは当たり前の事なのだろう。

そして、それはこの月夜の黒猫団に限った事ではないはず。

 

 

「……そっか、分かった」

 

 

本音を言えば、それは嘘だったが、きっと自分の言葉は今のシグレには届かない。

そう思い、サチはそれ以上の追及をやめる。

 

 

「…ね、今日だけ。今日だけ…一緒に寝てもいいかな?」

「……後で何を言われても知らないが」

「じゃあ…一緒に言われよう?」

 

 

苦笑するサチにシグレは溜息を一つ吐いて、それ以上は何も言わなかった。

とはいえ、向き合って寝る理由もなかったので、シグレはサチに背を向ける形で布団に入る。

すると。

 

 

「…おい」

 

 

サチは背中からシグレを抱きしめるように眠る。

体勢的に振り返って何かを言うこともできない。

 

 

「…ね、温かい?」

「……あぁ」

「うん…私も」

 

 

徐々に声が小さくなっていくサチ。

やがて眠くなってきたのだろう、口数も少なくなっていく。

 

 

「忘れ…ないでね。貴方も…温かさを求めて…いいんだよ?」

 

 

眠ってしまったのだろうか、それ以上は何も言ってこなかったが、抱きしめられたままで動くことができなかった。

けれど、サチの温かさを感じてか、シグレもまた、眠りに就いた。

サチのその想いがシグレに届いたかどうかは、定かではないが。


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