ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~   作:アルタナ

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第23話:再会の狼煙

仮想の中に広がる、荒野の世界。

そんな世界をただ一人。

 

 

「……」

 

 

無言で歩く。

その手には、あまりに現実離れした武器。

光剣、と呼ばれる、この世界の剣。

荒れ果てた様子や、そこを歩く足音は無駄にリアルな癖に、妙な所で現実離れしている。

それが、彼が抱いた感想。

 

 

「…」

 

 

ふとしたところで、立ち止まる。

俯き加減な彼の様子は、恐らく彼にしか分からない。

ほんの一瞬の静寂。

 

 

「…」

 

 

彼は、目を開く。

その視線は、流し目で後ろを見ていた。

そして、そんな彼の口元には。

 

 

「……く、くく…」

 

 

…楽しそうな、本当に愉しそうな笑みが、浮かんでいた。

 

 

……その次の瞬間。

 

 

「もらったぁ!!」

 

 

彼の視線の方向から、一人の男性プレイヤーが飛び出し、銃の連射による射撃を浴びせる。

腕が立つのか、それとも使い慣れた武器なのか。

放たれた銃弾は一直線に男の背後へと吸い込まれるように向かう。

やがて放たれた銃弾が着弾し、硝煙が立ち上がり、様子が見えなくなる。

反撃がなかったからか、討ち取ったと確信する。

 

 

「賞金はもらったな…!」

 

 

PvPギルドから発表された謎が多い賞金首プレイヤー。

何十人が束になっても勝てなかったということが、彼には信じられない。

こうも簡単に打ち取れてしまったから。

 

 

「……は?」

 

 

打ち取れた、と思い込んでしまったから。

自分の腹部から生える、光の刃がなんなのかが、一瞬分からなかった。

気づけば、満タンに近かったはずの自分のHPが、ごく僅か。

あと一撃でも貰えば、戦闘不能になり、街に戻される。

 

 

「…な、んで……!」

 

 

首だけでなんとか振り返れば、そこには自分が打ち取ったはずの相手。

距離を開けて、背後から銃弾を撃ち込んだはず。

自分の背後にいるはずがないのに、何故そこにいるのか。

もう、そんな言葉にする余裕すらなかったが、そう訴えるように視線を向ける。

 

 

「……滑稽だな」

 

 

彼の話し声とともに、ずぶ、と音がする。

貫いた光剣が、男の腹を抉る。

男は苦しさから嗚咽を漏らす。

 

 

「全く隠れていない気配で居場所を晒しておきながら、俺の背後をとったと、本気で思っていたとは、な」

 

 

わざと、彼は背を晒していた。

男はそれを聞き、悔しさを滲ませて呻く。

 

 

「…それに気づいていようがいまいが、あそこまで派手な銃撃で無駄に硝煙を立ち上げれば、煙の中でこちらはどうとでも動ける」

「が、ぁ…」

 

 

男は苦しさに気を失いそうになるが、彼はそれを許さないかのように剣で男の体内を抉る。

その痛みで、強制的に覚醒させられる。

それは、拷問さながら、だった。

 

 

「……その程度で、俺を打ち取ったと思っていたとは、な」

「ぎゃあああぁぁぁぁぁっ!?」

 

 

彼は、男の腹を貫いていた剣を振り上げる。

男は断末魔の叫びをあげながら、その場に俯せに倒れる。

そんな男は、腹部を起点に右肩までが完全に断裂させられていた。

 

 

「…この切れ味は、さすがに現実では難しい、か」

「何を、言って…」

 

 

剣の光を見ながら呟く彼に、男は尋ね返す。

もはや虫の息の男。

完全に戦意喪失しており、武器を手放していた。

彼は、そんな相手であっても容赦なく。

 

 

「…黙っていろ」

「ぎゃああああぁぁぁっ!!!」

 

 

切り裂かれた傷口に抉り込むように男の切り裂かれた肩を踏みつける。

伝わる痛みの感覚が強すぎるのか、断末魔が強くなる。

 

 

「ゆる、して…」

 

 

彼が足を上げると、涙を流し、涎を垂らしながら男は懇願する。

自分は何という相手に喧嘩を売ってしまったのか。

余計なことをしたせいで、楽しいはずの仮想世界で苦痛を味わっている。

もう、どれだけ醜くてもいい。

この苦痛から、解放されたい。

それだけが、男の思考を占めていた。

 

 

「……」

 

 

彼は歩き出し、男から離れる。

助かった。

安堵と、彼に対する感謝すら浮かんでいた。

しかし。

 

 

「う…!」

 

 

脇腹を蹴り上げられ、転がされ、仰向けにされる。

先ほどまで視界は地面が占めていたが、突然視界に入る日光の眩しさに目を閉じる。

けれど、そんな日光は、一つの影に遮られる。

 

 

「……?」

 

 

目を開けば、眼前には見覚えのある銃口。

それは、男が持っていた銃。

安全装置は、解除されていた。

 

 

「っ……!」

 

 

逃げたい。

少しでも体をずらせば、逃れられるかもしれない。

けれど、動けなかった。

自分を見下ろす、彼の視線。

そこに、憎悪や憎しみといった感情があったわけではない。

ましてやゲームを楽しんでいるような感情が見て取れたわけでもない。

 

 

「…」

 

 

…何も、なかった。

それが一層、男の恐怖を煽る。

仮想世界とはいえ、淡々と、さも当たり前のように引き金を引く。

GGOという仮想世界は、銃に興味を持って、銃を楽しむ世界。

男もまた、そんな一人。

男の周りのプレイヤーも、普段持つことはあり得ない銃というものを楽しんでいるプレイヤーばかり。

必死に自らを研鑽するプレイヤーもいる。

ただ、楽しむプレイヤーもいる。

それはあくまで、これがゲームだから。

 

 

「っ…」

 

 

そんな認識があったからこそ、男は気づいてしまった。

目の前にいる彼は、ゲームを楽しんでいるわけではない、と。

彼は息をするのと同じくらい当たり前のように、誰かに銃の引き金を引くのだと。

気づいてしまったからこそ、恐怖に身が震えた。

もう、目の前の銃に撃ち抜かれて、死ぬ以外の未来がない。

 

 

「…Auf Wiedersehen」

 

 

彼は返事を待たず、引き金を引く。

一発撃った直後、男は光となって消えた。

 

 

「……」

 

 

安全装置が戻った手元の銃を見る。

彼は一つ息を吐き、それを放り投げ。

 

 

「…ふん」

 

 

自らの剣で、それを破壊した。

光の粒となって霧散した銃を見ながら、ぼんやりと宙を見る。

 

 

「……」

 

 

しかし、そんなぼんやりとした時間は長く続かず。

 

 

「…」

 

 

やれやれ、といった感じで、突っ込んできた相手を躱す。

長い黒髪の、見慣れない相手。

相手は踵を返し、自分とは色違いの光剣を構えて突っ込んでくる。

 

 

「うおおおぉぉぉっ!!」

「っ…」

 

 

その勢いに僅かに気圧されながら斬撃を受け止める。

また、か。

そう思いながら、対応しようとした時。

 

 

「……久しぶりだな、シグレ」

 

 

そう、黒髪の相手は確かに言った。

それを受けて、彼…シグレは記憶を辿る。

 

 

「………キリト、か」

 

 

SAOでの見た目とは性別を疑うレベルで異なる容姿の相手に、確認するように名を呼ぶ。

名を呼ばれた相手…キリトはにやり、と笑みを浮かべた。

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