ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~   作:アルタナ

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第27話:折れない心

そうして、PvP戦闘用の簡易施設。

そこで、シグレと、彼を除く皆が対峙する。

普通に考えれば、それは一方的ないじめといえるレベル。

しかし、それでも。

 

 

「……」

 

 

シグレは退かない。

それどころか、まるでそれを愉しんでいるかのように、シグレの口元には笑みが浮かぶ。

この状況で見せるその表情に、皆は一瞬背筋が震える。

しかし、それでも、皆は武器を手に取り、戦う。

もはや、言葉もない。

静寂が包む空間。

そんな中に、微かに響く足音。

それが戦いの始まりの合図だった。

 

 

 

…それから数分。

 

 

 

「…」

 

 

すっかり使い慣れた光剣を手に、佇むシグレ。

今、この戦場で、シグレだけが、立っていた。

キリトをはじめとした皆は、地に伏していた。

 

 

「……もう、終わりだな」

 

 

シグレは辺りを見回し、やがて光剣をしまう。

皆のHPは完全にレッドゾーンで、あと一撃でも喰らえば、死に戻りしてしまうだろうという程度。

シグレはとどめを刺さずに、その場を後にしようと出口に向かう。

 

 

「……シグレ!」

 

 

そんな彼の背後から。

 

 

「アタシは、諦めないから…このままにしたらシグレが死んじゃうなら、絶対に…止めてみせるから……!」

 

 

ストレアが決意を表明するかのように、あるいはこの場の皆の意思を代弁するかのように叫ぶように言う。

 

 

「…」

 

 

それでも、シグレは言葉はおろか、振り返りもせずに、背を向けたまま。

今のシグレの表情は、誰にも窺えない。

 

 

「……勘違いのないように、一つ言っておくが」

 

 

持っていた光剣をしまいながら、倒れ伏す皆に背を向けたまま。

 

 

「俺はお前達の友達でもなければ、仲間になったつもりもない……SAOでは、ただ利害が一致したから行動を共にしただけだ」

 

 

友達ごっこは、お前たちだけで勝手にやっていろ。

それだけ言い残し、シグレはその場を後にした。

打ち伏せた、彼女らの表情を一度も見ることなく。

 

 

 

…だからこそ、気付かなかった。

 

 

「…っ…やれやれ。そんな程度で突き放せるほど、弱くはないぜ、俺達は」

 

 

キリトも。

 

 

「全くね…私たちもSAO生還者だって、忘れてるのかしら」

 

 

アスナも。

 

 

「…ま、戦いに関しちゃ負けるかもしれないけど、いくらなんでもね。一発引っ叩いてやる」

 

 

フィリアも。

 

 

「さすが先輩、というべきかもしれないけど…そう簡単に私は離れないわよ。どれだけ私が想い続けてきたか…思い知らせてあげるから」

 

 

シノンも。

 

 

「ボクも…まだ何も始まってもいないから。ちゃんと伝えるために…ここまで来たんだから…!」

 

 

ユウキも。

 

 

「アタシだって…シグレが助けてくれたように、シグレを助けたい。この想いは…シグレにだって否定させない。それがシグレのためなら、アタシは…」

 

 

ストレアも。

シグレと深く関わった者は、誰一人として。

 

 

「…さて、どうするシグレ。誰一人、お前の思い通りにはなってないようだぞ?」

 

 

キリトが言う通り、諦めていなかった。


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