ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
キリト達が決意新たにしていた頃。
「……」
溜息交じりに現実に戻るシグレ。
「やぁ、お疲れ様」
「……モニタしていたのか」
「あぁ。君がどれだけ『使える』のかを知る、いい機会だからね」
「…」
シグレに話しかける、どこか裏がある、けれどそれを悟らせない笑みを眼鏡越しに浮かべる男。
それが誰かは、言うまでもなく。
「……それで、結果は」
「…あぁ、合格だとも。あれだけ戦える相手をあの人数相手に完封できるほどだ。見事、の一言に尽きるね」
拍手をしながらの菊岡。
「これなら、彼らに依頼せずとも、プロジェクトは進められるかもしれないね」
「…」
「もっと喜べばいいだろう。君が力を示したことで、僕は彼らに依頼をすることなく事を進められる…君のおかげで、彼らは平穏な生活を送れるのだからね」
君が望んだことだろう?
そう、菊岡は続ける。
「…よく言う。貴様があいつらを人質にしただけのことだろう」
「人質とは人聞きの悪い。別に命の危険があるわけでもないんだがね」
いずれ詳細は告げる。
それまで、少しでも体調がよくなるように療養してくれ。
それだけ告げ、菊岡は部屋を出ていく。
「……」
一人となった室内で、時雨は一人、自らの手に視線を落とす。
SAOを始める前から比べると、やつれた手。
軽く拳を握ってみるが、力の入りはそれほど良くなかった。
それでも。
「……俺があいつらに返せる事はもう、これくらいしかない」
いくらVR慣れしているからといっても。
得体の知れないものに、巻き込むわけにはいかないと思っていたから。
自分なんかを仲間だと呼ぶお人好しを、巻き込みたくないという、時雨なりの贖罪。
それを完遂するためにも。
「…これが終わるまで持てば十分だ」
そうなれば、たとえ自分の命が尽きたとしても、どうでもいい。
それで、彼らが平穏に、時にゲームを楽しみながら生きられるのなら。
そう思いながら、時雨は立ち上がり、部屋を後にする。
「余計な気を、起こしてくれるなよ…?」
そう、願いながら、診察室へと向かう。
自分が置かれた病名についても告げた。
突き放す言葉もぶつけた。
ここまですれば、いくらあいつらでも、もう関わってこないだろう、と思いながら。
「……紺野、か」
ふと、ユウキと名乗る少女から告げられた苗字。
時雨にとっては、懐かしい苗字だった。
だからこそ、ユウキが何を言おうとしていたかも、おおよそ察しはついていた。
謝りたいこと、と言っていた。
「……」
どうせもう少しで、その罪悪感を感じる相手はいなくなる。
この身体に限界が来れば。
そうなれば、きっと彼女は救われる。
そう、時雨は確信めいた何かを持っていた。
「…」
自分の事など風化させてしまえばいい。
自分のような人間など、誰かに仲間と言ってもらえる筋合いなどない。
ああいう奴らが歩く光の下を、自分は歩けない。
自らの罪は、それを許さない。
…だからこそ、彼らの仲間と言うことは、時雨にはできない。