ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
それから街に出て。
「とはいったものの…」
出だしてすぐに頭を掻くキリト。
「…どうしたもんか」
「お兄ちゃんの考えなし」
「うぐっ…」
リーファにジト目で言われ、まるで心臓を銃で打ち抜かれたかのように胸元を押さえるキリト。
「…ま、まぁシグレは良くも悪くも有名みたいだし、聞き込みでもしてみる?」
「それがいいと思うわ。フィールドであれだけシグレ君を狙う人がいたんだもの。何かしらの情報はあると思う」
「……フォローもなくスルーするなよフィリア、アスナ…」
フィリア、アスナにスルーされ、がっくりとするキリト。
「あ、あはは…」
フォローができないのか、それともする気がなかったのか、リーファは愛想笑いのみだった。
「まぁ、いいや。じゃあ聞き込みの線で…」
言いながら、キリトが立ち直って歩き出そうとした、その時。
…前方から、ものすごい勢いで駆けてくる人影が目に入る。
「うわっ!!」
「なっ!?」
「何、何なのよ!?」
皆が思い思いに人影を避けると、人影は彼らの背後、キリトの私室があるマンションへと駆けていき。
「…へぶっ!?」
勢いを緩めることなく、壁に激突するのだった。
ガン、と実に痛そうな音を伴って、人影はそのまま地面に伏した。
「…あ、あの…大丈夫、ですか?」
リーファが恐る恐る声をかけると、人影は立ち上がる。
SAOでのアスナほど長くはないが、背中に届くセミロングの銀髪を靡かせ、立ち上がるその姿は女性のようで。
「……」
激突した際に打ったのか、鼻を摩りながら立ち上がる。
どこか釣り目で、近寄りがたい雰囲気を醸す彼女の目尻にはうっすら涙が浮かんでいた。
そんな状態で。
「……平気。ありがと」
そう、言葉にする。
彼女以外の誰もが、そうは思えなかったのだが、敢えて言わないことにするのだった。
「なんだって壁に激突するようなことを…」
「VRの操作方法がよく分からないだけ」
「……もしかして、VRMMOはこれが初めて?」
「?…えぇ」
痛みが引いたのか、会話に応じる女性。
手が離れたことで露わになる、どこか日本人離れした綺麗な顔立ちは、子供と大人の中間のようにも見えた。
笑顔を見せれば男性は落ちそうなものだが、無表情を崩さない。
その表情の中に、僅かに警戒心が見て取れた、というのもあるが。
「…もういい?」
「あ、えぇ。ごめんなさい引き留めて」
「……ん」
言いながら、歩き出す女性。
「あ、そうだ。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「……何?」
そんな彼女を呼び止め、思い出したように言うフィリアに女性は止まる。
聞き込みというのなら、聞かない理由がなかったから。
「貴女、シグレっていう人の事、何か知らない?」
「……シグ、レ?」
フィリアが出したシグレという名前に反応する女性。
その様子に何かを知ってるのか、と察したフィリア。
「何か知ってたら教えてほし……ひっ!?」
教えてほしい、というフィリアの言葉は最後まで続かなかった。
そんな彼女の首筋に、女性が光剣を抜いていたから。
フィリアの耳元に響く光剣独特の電子音が彼女を硬直させる。
「何を…!?」
アスナが反応しようとしたが、それより先にアスナにハンドガンの銃口を向ける。
その反応の速さは素人のそれではなかった。
「……漸く道を見つけた」
そういう彼女の目は、皆をきつく睨みつける。
「道って…どういうことだ!」
「……復讐の道」
キリトの怒声に近い声に動じることも、視線を返すこともなく答える。
「関わるつもりはなかったけど、あいつの知り合いなら話は別。シグレについて、教えてもらう」
断れば、斬る。
細められた視線は、如実にそう語っていた。
日本人離れした蒼い瞳には、憎悪に近い何かすら感じ取れる。
「……私はヴェンデルガルト。かつてシグレに……家族を殺された復讐をするために、ここに来た」
力強く、女性…ヴェンデルガルトは迷いなく言い放った。
その言葉に、一行は動けなくなる。
…それが、ヴェンデルガルトが抱えるものか、それともシグレに垣間見えた過去のどちらが理由かは分からないが。
To be continued to next chapter...