ソードアート・オンライン ~戦い続けるは誰が為に~ 作:アルタナ
第1話:変わらぬ事実
突然刃を向けるヴェンデルガルト。
「家族を…殺された?」
そんな彼女に、キリトが鸚鵡返しで尋ねる。
「…あいつは、私の両親を、殺した。私は忘れない…あいつの足元で血を流す家族の姿を。あいつの刀から滴り落ちる、家族の血を…!」
「シグレが…か」
「あれから私は、剣を学んだ。あいつが家族を殺したのと同じ…それ以上の方法であいつを殺すために」
家族の仇討ち、ということなのだろうと彼女以外の皆は察する。
「…憎しみは憎しみしか生まないって、知ってるか?」
「そうね。だからあいつは私という復讐者を生んだ…けど、だからどうした。あいつは人を殺す事しかできないような奴だ」
殺したところで、それ以上の憎しみなんて生まない。
ヴェンデルガルトはそう言い切る。
「…残念ながら、そうはならないだろうな」
「……?」
「分からないか?あいつがお前に殺されれば、今度は俺たちが憎しみの刃を向けることになるだろうからさ」
「な…」
信じられない、といった表情のヴェンデルガルトに、キリトは言葉を続ける。
「俺たちは昔のあいつを知らない。だから、平気で人を殺すような奴だったといわれても、それを否定することはできないさ」
「だったら……!」
「…けど、あんたは…今のあいつの何を知ってるんだ?」
キリトの言葉にヴェンデルガルトは押し黙る。
「……そうね。確かに私が知っているのは昔のあいつだけ。それは認める」
「だったら…!」
「それでも、あいつは私の家族を殺した。それは紛れもない事実……だから、私は復讐の為に、あいつを殺す」
それが、私が今生きる意味だから。
言いながら、ヴェンデルガルトは武器を収める。
それを見て、アスナも剣を収める事で、緊迫した空気は収まる。
「……」
しかし、先ほどのような会話を交わせる雰囲気ではなくなっていた。
その空気からか。
「…」
ヴェンデルガルトは踵を返し、建物の中へと入っていった。
その様子を見送りつつ、後は追わない。
「……危なかったね」
「あぁ…リーファも、そう思ったか」
「うん…」
キリトとリーファが言葉を交わす。
神妙な様子の二人に。
「危ないって…さっきの人が?まだMMOに慣れてないように見えたけど…」
剣を向けられる前の派手な転倒のことを言っているのだろう。
アスナの言葉に。
「…あぁ。多分MMOを始めて間もないとは思う」
「だったら…」
「けど…慣れてないからこそ、助かった、というべきかもしれないな」
キリトはそう言葉を返す。
それは言い換えれば、彼女がもし、MMOでの身のこなしに慣れていたら。
「……さっきの気迫というか威圧感というか…どこかシグレに似てた、気がする」
剣を直接つきつけられたフィリアもそんな風に言葉にする。
実際戦ったらどうなのかが分かるわけではないが。
「出来れば、相手にはしたくない…かな」
ゲームとしてのただの力比べならいいが、それで済むかどうかと思ったキリトは、そう言葉を漏らす。
それについては異論がなかったのか、誰も何も言わない。
「……見覚えのある顔を見つけたからついてきてみりゃ、また懐かしい顔ぶれだなぁ?」
そんなキリト達の背後からかけられる声。
振り返り、その場にいた4人は息を呑む。
「なんで…」
キリトが何とか言葉を紡ぐ。
「…なんでお前がここにいるんだ」
息が詰まるような表情は徐々に警戒心に変わる。
無理もない。
そこにいたのは、かつてSAOを混乱に招いたギルド『笑う棺桶』のリーダー。
「…PoH!」
キリトが名を呼ぶ。
「随分見た目が変わったが、黒の剣士か。覚えててくれて嬉しいぜ?HAHAHA…!」
4人を目の前にしても飄々とした、あるいは余裕なのか。
PoHはフードで目を隠したまま、ただ、嗤う。